40人が本棚に入れています
本棚に追加
すると、ぽんと頭に軽く手が乗せられた。
顔を上げると、思ったよりも優しい目をしたルミナがこちらを見下ろしていた。
「ほんと、真っ直ぐだなぁ」
「ルミナ」
「俺の方も、あんな風に大人げなく当たるべきじゃなかった。それにお前は俺のために来てくれたんだろ」
リリアはなにか返事をしようと思ったが、うまくできずにヒックヒックと嗚咽をもらすだけだった。
以前リリアがしてあげたように、ルミナは軽く肩を叩いてなだめてくれた。
しばらくの間そうされてなんとなく安心した気持ちになるリリアだが、そこであることに気がつく。
「ルミナ、縄は?」
さっきまで縛られていたはずなのに、彼の手足は自由になっている。
「実はこれ隠し持ってた」
しれっとした顔でルミナは服の中に忍ばせていたナイフを取り出した。リリアはぽかんとしてしまう。
「え、え、なんで?」
「どうせこうなるだろうと思って持って来た。案の定あいつらほんとクズ」
話しながら彼はリリアの縄もナイフで切ってくれた。
「えっとえっと、司祭さまがあなたを生贄にしようと考えてるって、気付いていたの?」
「それに、あの男がアレンとはなんの関係もないってことも」
リリアは驚く。
「うそ! あんなに仲よくしていたのに」
「そうでないとあいつ油断しないだろ」
「あっあの人が、好きになっちゃったかと思ってた」
ルミナはわずかに視線を落とし、苦笑した。
「姿を変えてるんだってすぐにわかったよ。見てくれをいくら似せても、中身からアレンとの血の繋がりを感じなかった。なにより、俺の知らないとこであいつが子供残してたのだとしたらやっぱムカつくし」
縄を完全にほどくと、彼はリリアの手を引いて立ち上がらせてくれた。
「出歩いてたのだって、ロゼスと会うためだけじゃないよ。司祭のおっさんについて気になることがあったから、調べたくてな。それに俺を呼び出すよう言い伝えられていた理由も」
「? ええと、つまりあの二人が胡散臭いって気付いていたのね。ならどうしてここまで大人しくやってきたの? さっさと逃げてしまえばよかったのに」
「それも考えたよ。だけど」
言い掛けている途中で、ルミナは泉に注目した。
リリアも彼の視線を追うと水面が揺れているのがわかった。
なにかが、水の底から現れようとしている。
「まだ、人と魔物が争っていた頃」
ルミナはおもむろに語り出した。
「俺の村に一人の男がやってきた。魔物退治の旅の途中で、飢えて野垂れ死にそうになっていたところを助けたんだ。その礼だとか言って、あいつは魔物から村を守ってくれていた」
「それって、アレンさまのこと?」
「そう。あいつは、魔物との戦闘に長けていた。そんな奴が当時村にいたのに、なぜ悪魔を倒さずにいたと思う?」
リリアはハッとする。
最初のコメントを投稿しよう!