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「ルナリアさま、どうしてこんなことに」
「なんとおいたわしい」
すっかり様変わりしてしまった女神の姿を村人たちは嘆いた。
ルナリアの肌は青白く変色して、醜い斑点がいくつも浮かんでいた。美しかった髪の毛はくすんだ色になり、前髪の間から見える形相からはあの優しかった女神の面影を感じられない。
姿だけでなく心までおかしくなってしまったのか、彼女は容赦なく家畜や村の人間を襲った。村の男たちはどうにか応戦しようとしたが、やはり女神を傷付けてしまうなんてできるはずもない。
ルナリアは近くの洞窟に逃げ込み、月の陰っている暗い夜になる度に村に現れては人々を苦しめた。
いくら相手が女神とは言え、今の村人たちにとって彼女は恐ろしい悪魔のようなものだ。
けれど、時折ルナリアは我に返る。
彼女は消え入りそうな自我を保ちながら、村人たちにある頼みごとをした。
「村の者の魂を一つ。それも若く純潔な人間の魂で私を封印してください」
けれどこの要求に村の者たちは困り果ててしまった。
生贄といえばやはり女性だと相場が決まっている。しかし村は高齢化が進んでいて、若い純潔の女性というのがそもそもいない。
それに村の者という注文なので、よそから連れて来るわけにもいかないだろう。
急がないと再びルナリアは自我を無くしてしまう。
早急になんとかしなければ村は彼女の手で滅ぼされてしまうのだ。
「よし、さっさとこの村から逃げよう」
あるとき、アレンがこう言った。
どうしたもんかなとルミナは考える。
逃げると言ってもこの世の中だ。いつどこで魔物に襲われるかも分からない。
よその土地が快く受け入れてくれるとも限らないし、それならまだ村にとどまっていたほうがマシなのではないか。ルミナだけでなく、多くの村人がそう考えていた。
ルナリアは月の明るい夜、とくに満月の日には洞窟から出て来ない。おそらく月の光が彼女を浄化しているのだろう。
それに基本昼間は行動しないし、明るい月が出ていれば危険はない。
だからルミナとしては例え生贄が見つからなくても村を離れる気がなかったし、時間が経てば元の彼女に戻ってくれるかもしれないという望みも捨てきれずにいた。
「いざとなったら守ってやるから。なに? ルナリアさまを放っておけない? いいから黙って俺についてこい」
なんてことまで言われたが、やはりルミナは悩んでいた。
ルナリアはまるで母のようにルミナの支えとなってくれた相手だ。
そんな彼女を見捨てて村を出ていくのは、なんとなく気が引けてしまうのだ。
ちょっと考えさせてと言って、ルミナは一人で村をぶらつくことにした。
けれどこのとき、村はずれの方へ足を向けたのが間違いだった。
「本当に、こんなことをしてよかったのでしょうか」
どこからかひそひそと話し声がした。
何気なく声のした方へ向かってみると、建物の影で隠れるようにして話をしている男が数人。
ルミナには盗み聞きの趣味はないが、いかにも怪しい雰囲気だったのでさすがに気になってしまった。
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