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集まっているのは村の長老と地主に、他数人。
揃いも揃ってなにをしているのか疑問に思いつつ、ルミナは聞き耳を立てる。
「これも村のためなのだ。いくら女神の加護があるとは言え、魔物たちは力をつけている。それに女神は弱っていた」
「だがしかし、我々が女神さまに毒を盛ったなど他の者に知られたら」
ルミナは驚いて一歩後退る。けれどその拍子に、いつの間にか背後に立っていた別の男にぶつかった。
「ここでなにをしている?」
怖い声で言ってきたのは地主のところの使用人だ。強面で、なんとなく嫌いな奴だ。
長老たちもこちらに気付いてぎょっとしている。
「な、いつの間に!」
このままぼやぼやしていたらろくなことにはならないだろう。
ルミナはさっさと逃げることに決めた。
「じゃあ俺急いでいるから」
けれど彼はあっさり捕まってしまう。
有無を言わさず引っ張られて行き、近くの小屋の中に放り込まれた。
抵抗する間もなくあれよあれよと小屋に置いてあった縄で拘束され、柱にくくり付けられてしまう。
「なにすんだ! 年寄りは若者をもっといたわれよ」
「やかましい。それより今の話聞いておったな」
「えーなんのこと? もしかして、やましい話でもしてた?」
誤魔化しながらもルミナは頭を働かせる。
さっきの会話からして、ルナリアがああなったのはこいつらがなにかをやらかしたせいなのだろう。
「ふん、まあそんなことはどうでもよい。実はちょうどお前に用があったのだ。女神さまに捧げる生贄の件だが、お前に決まったぞ」
「なに言ってんの?」
さっぱりわからないながらも事情を聞くと、女神は村人の中から若く純潔な生贄を所望していた。
生贄といえば普通は女性だと相場が決まっているのだが、そんな娘は村にはいない。だがよく考えてみれば女神は別に性別に関しての注文をしていなかった。
つまり、若くて純潔なら男でもいいんじゃね? と思い至り、ちょうど若くて女性経験もなさそうなルミナに白羽の矢が立ったらしい。
どうせルミナには家族もいないから、誰も悲しみはしない。それに女神さまも娘を寄こされるよりも、男の方が嬉しいに決まっている。
なにより普段大した仕事をしていないんだから、こういうときくらい村の役に立てとのことだ。
「そういうの、俺の意見も聞かずに決める?」
「聞く必要もなかろう。むしろ村のために死ねるのだから光栄に思いなさい」
あまりにも一方的に、とんでもない役目を押し付けられてしまった。
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