6 決着

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「ぐ、うウゥ」  ルナリアは低くうなりながら、こちらの様子を観察している。  まるで怯えている小動物みたいだ。下手に手を出したらすぐに飛び掛かって来るだろう。 「女神さま、諦めてしまったのかも」  ふと、そんな考えがリリアの頭の中によぎった。 「諦めたって、元に戻ることに? でもなぜ」 「なぜと言われても、なんとなくそう思ったとしか。だって今の女神さま、こんな恐ろしい姿でしょ。封印が解けてみんなの前に再び姿を見せたら、悪魔だなんて言われて」 「それで心が折れたとか言いたいの?」 「ルナリアさまは人間が好きだったんでしょ。その人間に罵られて自分を見失っているのかも。みんなに恐れられたせいで、今では自分を本当の悪魔だと思い込んでいるのよ」  今は誰もルナリアを信仰していない。  彼女の正体を知らなかったから当然だろうけれど、もしかしたらそのせいで彼女は自分が何者なのかを思い出せないのではないか。 「そうだとして、どうする?」 「説得しましょう!」 「彼女を見てみろ! 今こんな状態なんだ。俺の知っているルナリアさまとは別人になってしまった。それをどうやって説得する?」 「あなたまで諦めるの?」  リリアの言葉に、ルミナは下を向いてしまう。 「女神、ルナリアさま」  リリアはその場に跪いて両手を組んだ。 「どうか目を覚まして。私たちは、あなたが戻ってくれるのを待っています」  ルナリアは一瞬だけ硬直したが、すぐに腕を振り上げてリリアの体をはたこうとした。 「リリア!」  慌ててルミナが彼女を突き飛ばしたおかげで、どうにかルナリアの攻撃を退けることができた。  それでもリリアは怯みそうになる己を叱咤して、心が壊れて悪魔になってしまった可哀想な女神さまに祈りを捧げる。 「リリア、どうして?」 「だって私にできることは、昔からお祈りくらいだけだったもの。だけどもし私の思いが届くのなら、祈ることも無駄じゃないでしょ」  リリアはぎゅっと手を組む力を強くした。  ルミナはしばし呆然としていたが、やがて彼もリリアの隣で同じように手を組み合わせた。 「俺にとって、あなたはなによりも大切な存在だった」  静かに語りかけながらルミナは苦し気に顔を歪ませているルナリアを見上げた。 「もう魔物たちは倒されて、村の平穏を脅かす奴はいない。だから元のあなたに戻ってほしい」  彼女はうめき、頭を抱えている。  そしていきなり咆哮を上げたかと思うと、醜い斑点の浮かんだ両腕を大きく振りかざした。 「ッ!」  リリアは思わず目を閉じてしまう。  ルミナは咄嗟にリリアの身を庇った。 「っ、あ?」  ルミナが呆けた声をもらすのを聞いてリリアは目を開ける。  彼女たちに背を向ける形で、両手を広げて立っている青年の姿があった。  彼の登場にリリアは驚く。そこにいたのはあの卑怯者のロゼスだったのだ。  なぜあの男がここにと思ったが、すぐにそれが別人であると気付く。  彼は凛々しい面差しをした端正な青年、でもロゼスとは明らかに雰囲気が違っている。 「お前なの?」  目の前の人物を凝視しながらルミナが呟いた。
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