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リリアもこの人が何者なのかすぐに思い至る。
でも、一体どうなっているのだ。どうしてこの人がここに姿を現したのか。
「ア、あぁ」
ルナリアは大きく目を見開き、同じように青年の姿を見つめている。
彼はこちらを振り返り、微笑んだ。
息を呑んだルミナが手を伸ばそうとするが、その瞬間に青年の姿は掻き消えてしまう。
今のはなんだったのだ。
空から降り注いでくる月の光が見せた幻だったのか。
あるいは恋人の危機を救う為に、姿を見せたのだろうか。
「救われたのですね」
ルナリアはゆっくりと語り出す。
濁っていた声はよく通る、まるで楽器の音色のような美しいそれに変化していた。
ルナリアが目を閉じると、月明かりに浄化されるようにその姿が変化していった。
ばさばさの髪は艶やかになり、体中の斑点が消えて透き通るような肌になる。足は大蛇のような形のままだが、あの禍々しさが消えて白銀のように輝いている。
そして開かれた瞳は、穏やかで慈愛に満ちていた。
「ルナリアさま」
ルミナが目を輝かせる。
「やっと、本当のあなたに会えた」
ルミナの言葉に、ルナリアはまるで母が子にするような笑みを浮かべた。
「あなたは、ルミナですね」
彼が頷くと、ルナリアは優しく目を細めた。
「心配を掛けてしまいましたね、ルミナ」
ルナリアは次に、リリアの方へ視線を向けた。
目をまん丸くしてやり取りを眺めていたリリアはあたふたとお辞儀をする。
「る、ルナリアの街で育った、リリアといいます。私は女神さまにお仕えしていて。あ、あの女神さまと言っても本当はその」
しどろもどろなリリアにルミナはくすりと笑い、彼女の肩を抱きしめた。
「リリア!」
「わ! えぇ? な、なに」
「今、すっげー嬉しい。いきなりよみがえらされてうんざりしてたけど、全てこの瞬間の為だった!」
ルミナは声を弾ませ、頬を上気させている。珍しい姿を見せられてリリアは面食らう。
「ルミナ、どうしたの?」
「お前への感謝で胸がいっぱいになってんだよ。お前が、ルナリアさまを救ってくれた。お前の姉さんが俺をこの世界に呼び戻した。でも俺一人じゃきっと無理だった。だけどお前がいてくれた! お前は俺と一緒に彼女を助けてくれたんだ!」
ようやくのことでルミナはリリアから身を離した。
喜びの為だろうか、彼の目元にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「あなたがここまで感謝してくれるなんて、驚きだよ」
「俺も、自分でも珍しいことだって思うよ。ともかく、ありがとう」
ルミナからの真っ直ぐな感謝の言葉に、リリアは少し照れてしまう。
「あなたたちの声を聞いて、私はようやく自分が何者だったのかを思い出せました。私の心はずっと冷たい檻の中にいました。けれどあなたたちは、私を信じて呼びかけてくれましたね。ありがとう」
ルナリアの言葉に、リリアはやはり恐縮してしまう。
「さてと、俺は自分の役目を果たしたわけだ。でも、まだやることがあるな」
「やることって?」
「俺を利用しようとした不届き者たちに、ちゃんと落とし前つけてやらないと」
ルミナは楽し気に、まるで悪童のように口の端っこを吊り上げた。
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