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7 お別れ
それから何日か経過して、街は落ち着きを取り戻しつつあった。
悪魔だと恐れられていた存在の正体が真の女神だと知ってみんな混乱していたが、捻じ曲がった歴史はややこしい部分をのぞいて修正された。
ややこしい部分とはつまりルミナの性別に関することで、特に黙っておく必要もないのだがルミナ本人が説明を面倒臭がったので省略された。
「全部終わったんだね」
「思い返してみるとあっという間だったよな」
リリアとルミナは神殿の広間で話をしていた。
今この場に他の者はいないから、誰にも邪魔されることなく二人だけの時間を過ごすことが出来た。
「これで一件落着ね。司祭さまはちょっと可哀想だったけれど」
「ならお前あいつのこと許してやるの?」
「そうはいかないわ! あの人は姉さんもろともあなたを生贄にしようとしたのよ。例え姉さんやあなたが許しても私が許さない!」
熱くなるリリアにルミナは肩を竦めた。
あれから司祭は自ら神殿を後にした。
自分は神に仕える者として相応しくないと認めたのだ。
ロゼスと名乗っていた男は司祭が見つけて来た詐欺師だったのだが、さっさと逃げてしまったらしくいつの間にかいなくなっていた。
あの馬鹿に天罰があらんことをとリリアはこっそり願った。
「俺さ、よく勝手に抜け出したりしてただろ。あのおっさんについて調べていたんだ」
ルミナによると、司祭はかつて女神に毒を盛った長老にどこか面影があったのだという。
なんとなく似てるなと思ったから調べてみたら、どうやら司祭は長老の子孫だったらしい。
そのこともあってルミナは司祭の考えになにか裏があるのではないかと勘付いたのだ。
「ほんとあいつらの一族はろくでもないな。別にさ、犠牲を払って周りを守ろうとするのは悪いことではないよ。でも他にやりようはあると思うのさ」
ルミナはよっぽど腹に据えかねていたのぶつくさ文句を言っている。
「それと俺が女神ってことになっていたの、単に情報がおかしな伝わり方をしただけかと思ったけど、もしかしたら意図的に捏造されてたのかも」
「どういうこと?」
「だって本当の話が伝わったら、当時の村の連中が悪者になるだろ」
なるほどとリリアは思う。
自分たちのしたことを後世に残らないようにあれこれ誤魔化していたら、その過程でルミナについての設定も変わってしまったのだろう。
「かと言って、性別が変えられちゃうとはね」
「アレンと付き合っていたせいもあるかな。悟られないようにしてはいたけど、気付いている奴がいなかったとは言い切れない」
そのアレンは、魔物たちとの戦いを終えた後に再びルナリア村へ帰ってきた。
彼はいつかルナリアが復活して、同じようなことが起こることを危惧していたのだ。だからいつかそうなったときの為に魂を呼び出す方法を探して、ルミナをよみがえらせるよう言い伝えていたらしい。
「一体どこの馬鹿が俺を召喚するように伝えたんだと思って調べてたら、まさかあいつの仕業だったとはな」
ルミナが勝手に抜け出して調べていたことの一つが司祭に関することで、もう一つが自分を呼び出す方法を言い伝えていたのは誰なのかだ。
その相手が、かつて魔物たちを倒して平和を取り戻した英雄であることはすぐにわかったらしい。
「あなたならなんとかできるって信じていたのよ」
「まったくあいつほんと迷惑。こっちの身にもなってみろよ」
そうは言いつつ、ルミナはどこか嬉しそうにも見えた。
リリアはルナリアに襲われかけたときに見た青年の幻を思い出す。
あれが見間違いだったのか、あるいはなにかの奇跡だったのかは今でもわからない。
「でもあなた、悪魔の正体がルナリアさまだって最初から気付いていたのよね。だけどずっと協力したくなさそうだったね」
「あー」
ルミナはバツが悪そうに頭をかいた。
「あの頃は、刺々しい態度とって悪かった」
「仕方ないよ。あのときあなた、怖かったんでしょ」
ルミナは頷いた。
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