7 お別れ

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 生贄にされて、それで終わりだと思っていた。なのに知らない時代に一方的に呼び出され、しかも男なのに女性の体に入れられて、女神さまだなんて言われて。  周り全てが敵に思えたから、攻撃的な態度を取ることで身を守ろうとしていたのだ。  彼だってルナリアをなんとかしたいと思っていたのだろうが、やはり不安と孤独感が強かったのだろう。 「最初は拒絶するような態度を取られて、ショックを受けたし傷ついたよ。どうしてあなたが心を閉ざしているのかも気付けなかったし」  だけど、リリアは彼の心に寄り添いたいと思った。  最初は好きじゃなかったのに、リリアもルミナと同じで一緒の時間を過ごしている内に、相手に愛着がわいてきたのだ。 「ねえ、ルミナ」  リリアは彼の名前を呼ぶが、どうしても暗い声色になってしまう。  ルミナは困ったような表情になる。 「そんなしけた顔しないでくれよ」 「だって、なんか寂しくなっちゃうんだもの」  リリアは別れの時間がくることを知っていた。  ルナリアが、ルミナの魂とリリカの肉体を引きはがしてくれることになったのだ。  リリカは元の優しい姉に戻り、ルミナの魂はあるべきところへ戻る。  本来なら彼にとってもリリカにとっても喜ばしいことなのに、リリアの胸は締め付けられるようだった。  そこへふわりとあたたかい風が舞い込んできた。  二人の前にルナリアが現れてにこりと微笑みかけてくる。 「そろそろ時間ですよ」  その言葉にリリアは少し泣きそうになる。  これが彼と過ごせる最後の機会だったから、ついつい長話をしてしまった。  だけどもう覚悟を決めないといけない。 「わかった、ひと思いにやってくれ」  ルミナが答えると、ルナリアは彼に向けてそっと手を振りかざした。  ルミナの体が光に包まれ、途端に彼はその場にふらりと倒れてしまう。 「ルミナ!」  リリアは慌てて彼を抱きとめた。けれど腕の中の少女は返事をしてくれない。  代わりに別の人間の声が答えた。 「大丈夫だよ」  リリアが顔を上げると、すぐ傍に淡い光をまとった見知らぬ男がいた。  驚きでリリアは目をぱちくりさせてしまう。 「あなた、ルミナ?」  そこにいたのは二十代半ばほどの、小柄で柔和な雰囲気の青年だ。  彼は自分の体をしげしげと眺めてから言った。 「紛れもなく俺だな。ようやくお前の姉さんから抜け出せた」  リリアはそっと姉の体を横たえて、ルミナの魂と向かい合う。  これがルミナの本当の姿か。想像していたよりもずっと穏やかで優し気な目をしている。  なんとなく広場にあったあの女神像に似ているかも知れない。おっぱいはないけれど。 「あなたって、思っていたよりもずっと素敵な人なんだね」 「もっと不細工だって思ってた?」 「もっと性格の悪そうな顔だと思っていたから、優しそうで驚いた」 「面と向かって言われると、なんかくすぐったいな」  ちょっとだけルミナははにかんだ。  女性的というわけでもないのだが、顔だちはわりと整っている方だし、なにより目が綺麗な人だと思った。  ルミナの表情はとても柔らかだ。リリカの体にいたときはあまりこういった顔を見せてくれなかったから、なんだか新鮮な気持ちになる。
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