五重塔

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東山一家は代々続く法隆寺の宮大工の家系である。 賢太の父親、つまり棟梁の長男の賢司も大工であるが、会社勤めをしており、今ここにはいない。名誉ある法隆寺の宮大工といっても、それだけでやっていくには難しい時代なのだ。 「お兄ちゃんは入らしてもらえんのに、なんで珠子はあかんのん。つまんないー」 東山邸は法隆寺から歩いて1分の近さにある。愚痴りながらも珠子はしぶしぶ、五重塔の石段を降りた。 「拓也。うまく嵌まるか」 「心柱がどないしてもぐらつきよります。10分の1ミリ単位で調整してるんですけど」 五重塔の中心を貫く心柱(しんばしら)は、1300年前の建てられた当時からある1本のヒノキである。元のヒノキを出来るだけ残し、現在手に入るヒノキで補修するのだ。 補修はうまくいったが、心柱を礎石に立てると微妙な隙間があり、心柱がぐらついてしまう。
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