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8月16日、京都の夜は熱気に包まれる。嵐山の渡月橋は今年も五山の送り火を見に訪れた観光客でごった返していて、護は賑やかさに目を背けた。
闇の中、遠くに見える東山如意ヶ嶽に、「大」の字が小さく浮かび上がった。お盆の精霊を送る炎が象られているのを、譲は背伸びをして、人並みの間から確認する。
また夏が終わる。独りでいる寂しさを紛らすように、Tシャツ姿の譲は渡月橋を渡り切ると中ノ島公園にたどり着いた。
真夏の濃い闇を、無数の光が渡っていく。
数えきれない灯籠の明かりが、音もたてず静かに桂川を流れ遠ざかる。
座って眺める人、通りすがりに立ち止まる人、手を合わせて祈る人。誰もが神妙な顔で、この夏の思い出を胸に刻んでいる。
その人混みの中に見覚えのある顔を見つけて、譲は思わず呼び止めようとした。
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