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「涼香!」
その声は騒めきに紛れ届かなかったようで、浴衣姿の彼女は、灯籠の流れる川面を見つめたまま俯いたままだ。
あれから4年。涼香の姿は見違えるほど大人びていて、藍色に朝顔の柄の浴衣がとてもよく似合っていた。
隣に立っているのは、温和で優し気な少年だった。
涼香は護の姿には気づかない様子で、浴衣を着て並ぶ少年と何事か会話している。しかし表情は思いつめたように暗く、すぐにまた俯いてしまう。喧嘩でもしているのだろうか。
その時、人々の間から大きなざわめきが起こった。川向こうの曼荼羅山に鳥居形の炎が燃え上がったのだ。
4年前に送り火を見上げた時、中学生だった涼香の隣にいたのは譲だった。
その場所を、今は見知らぬ誰かが占めている。時の流れは遡れない。仕方ないとはいえ、譲の心は波任せの木の葉のように揺れた。
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