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1、渇いた空
寒空が続く十二月。最近、からっからに渇いた生活を高見優一は過ごしていた。
恋人とは一年前に喧嘩別れ。それからは何度か出会いはあったものの、長続きしない。だからつい気軽な身体だけの付き合いばかり。しかも、身体だけの付き合いが最近は虚しく感じて、今や職場と家の往復の日々。
身体の渇きは癒せても心の渇きは癒せない。
職場でPCとにらめっこをしながらふと気がつくと、今日は金曜日。また何の予定もない休日をダラダラと過ごすのかと思うと、うんざりしていた。
「はあ……」
不意に出た溜息に、隣の席の山崎がボールペンで脇をつついて来た。
「おわっ、何すんだよ!」
脇は弱いんだからやめろ、とボールペンを手で払う。
「溜息なんかついてどうしたの」
小声で山崎が聞いてきた。山崎は同期入社の同僚。既婚者で今や良きパパだ。
「別に……、今日金曜だなあって」
「おお、週末だな! 家族サービスしないとな〜。高見は何すんの」
ニヤニヤしながら山崎は高見を見る。山崎は知っているのだ。高見に長いこと恋人がいないこと。週末は暇で仕方ないこと。
そして高見がゲイであることも。
「そりゃー、もう重症だな」
喫煙室に移動して、山崎は電子タバコをふかしながら笑う。
「お前ほどの遊び人が遊ぶのもめんどくさいなんて」
「誰が遊び人だよ」
高見は煙を山崎に吹きかけた。
「だってお前、昔は金曜のたびにバー行って狩ってたじゃん。このままだと干からびるぞ。気になる奴いねえの?」
「あー、いないこともなくはない」
「難しい日本語だな。いるってことか?」
まあな、と言いながらも高見はまた溜息をついた。
『狩り』をやめてしまった高見が最近、何となく気に入っているのは職場で見かける人物だ。執務フロアに戻り、またPCと向き合っていた時。ドアが開きその声が聞こえた。
「お世話になりまーす」
(お、来た来た)
作業した資料を保管している倉庫へと搬入する作業員の彼。
一ヶ月前からここに出入りするようになっていた。
かなりの短髪に細身で、長身だ。一八五センチはあるだろうか。くっきり二重の目に必ずマスクをしている。真面目そうな印象なのに、小さなピアスをしていた。
高見にとってストライクな容姿ではあるが、流石に職場でナンパする訳にもいかない。
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