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⁂朝練
夜明け近くまで友達と経済のレポート対策したあと、降り始めた雨の中を一気に走って下宿に帰って来た。
びっしょりになった服を脱ぎ捨て、乾いたタオルで体を拭いてから布団に潜り込み、目を閉じる。
現実と夢の中でうとうととしたときトントントン優しくドアを叩く音がした。
『夢?』 声が音にならない。
今度は現実の領域でトントントンとドアが鳴った。
「うぅーん」
完全に寝ぼけた声で答えたがドアの外まで聞こえるはずもなく、仕方なくそろそろと布団からすり抜けて下宿の玄関の前で
「誰なん?」
愛想もない声で尋ねる。
「朝練行こ!」
咄嗟には頭の中が混乱する
「・・・・・」
昨日、誰かと約束したっけ?でも誰だ?女の子の声だ?寝ぼけた頭で考えていると、
「ダメかなぁ」
ドアの外で少し迷惑だったかなんて思うような声が今にも消えてしまいそうに聞こえる。
『忘れとったわー』声にはならない言葉を呑み込んで
「ちょっと待っとって」
飛び起きたぼくはユニホームとジャージを手に取るが
慌ててジャージに足がスッと入らないし袖にもスパッと腕が通らない。
どうにもこうにも時間がかかって仕方ないのに、ドアの外で待たせている君にかける言葉も当然出てこない。
「ごめんちゃ。昨日、経済の友達とレポートやってたんよ。単位危ないんちゃね」
やっと部屋を出ると言い訳の連発で情けない奴になっている。
土砂降りだった雨もいつの間にか上がり、水蒸気いっぱいの空気を胸の中に吸い込んでこれからの日課となる朝練に君と向かう。
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