10人が本棚に入れています
本棚に追加
朝の体育館の中でシューズのキュッキュッという音とピンポン球が弾む音、たまにラリーを続けながらどちらからともなくかける声、暫くしてうっすらと汗が滲んでくると
「温まってきたね。カット打ちお願いします!」
とにかく君は練習に対してポジティブだ。
「じゃぁ、バッククロスからね。あんまり下回転入れないからラリー続けよう!」
「わかった」
ドライブを打つ素振りをしたあと台についた君にバックロングでピンポン球を打ち出すと今度はカット打ちのラリーが始まる。
君はカットマンとの対戦を少し苦手としていて、最近では規定錬でもぼく以外のカットマンとカット打ちの練習をよくしている。
この冬の新人戦で上位に食い込むためにはカット打ちの克服が絶対的条件と言っていい。
もともと、攻撃型の選手に対しては裏ソフトラバーと表ソフトラバーの特性をうまく使い分けられることと早いラリーにはミスも少なく一、二年まで参加資格のある新人戦では優勝も狙えるといってもいいかもしれないのだ。
『負けてられない』 心の中で思う。
新人戦での成績で差がつけば、君はもっともっと遠くへ行ってしまうかもしれないという焦りがどこかにある。
そんなことはないのかもしれないけれど、ぼくらの関係って確信が持てないほどふわっとしたものでしかないのだ。
『焦るな』と何度も何度も言いきかせてみる。
「じゃ、次は尚ちゃん、オールでいくからバックへ返してね」
「オッケイ!」
息を切らしながらこたえる。
君との朝練は、強くなりたいと思う気持ちに何かのきっかけをつくってくれたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!