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⁂ラストゲーム
ピンポン玉がネットの白いラインに引っかかりドライブの回転を吸収して、勢いを失ったままネットを越えることなく相手側のコートに滑り落ちた。
ポン、ポン、ポン・・と乾いた音をたてて台から床へ転がったのを目で追ったあと
「よっしゃ!」
左手に拳をつくり二度三度胸を叩いてから君のいないアリーナの観客席にラケットを持った右手を突き上げた。
「ナイスゲーム!」
両手でつくったメガホンで叫ぶ部員たちの声が、すぅーっと遠ざかりアリーナの照明も白く滲んでぽっかりと穴の開いたような空間が広がる。
ゲームセットのコールも相手選手と交わしたはずの握手の圧力さえ覚えていなかった。
気が付いたとき、アリーナの通路に出て誰にはばかることもなくしゃくりあげながら涙を流し続ける自分がいた。
『ここまで来れたよ、やっと君の背中が見たんよ』 声にもならない言葉を繰り返す。
君のいない世界になってまだ三週間しか時間は過ぎていないことがほんとに不思議に思えてしかたなかった。
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