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「泣くなっちゃ、次があるやん」
マエちゃんが肩を叩いて言う。
「次ならどうでもいいけん」
君が聞いたら口を膨らませて怒り出すかもしれない言葉がやっと声になった。
トーナメントの5回戦、ベスト16決定の試合に今こうして勝ち上がった。
学連ではベスト16以内になるとランク選手と称される。
もう少しすればベスト8決定戦のコールがアリーナに流れるはずで、ここがゴールであるはずのないことなど冷静に考えればわかるはずなのにあの時のぼくにはそこから一歩も動けないほど重い鉛のような何かがあった。
アリーナの通路には、皐月の日差しが大きなガラスを抜けて差し込む。
『立ち止まったらダメだよ!あたしの分まで走り抜けて』
少し俯き加減に笑う時の君の声が聞こえたような気がして見上げると
頬の涙を早く乾かせよとスポットライトのような陽が降り注いでいた。
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