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⁂夕焼け
体育館の練習風景は高校時代とは全然違っていた。
館内の四分の一をフェイスで囲って八つの卓球台が並び、いろんな色のユニホームを着た部員たちが「ファイト!ファイトー!」と間隔を置きながら声を出し合っている。
最初の一週間はただひたすら球拾いだった。
規定練習の間は、ぼくも掛け声を出して先輩たちのプレーを食い入るように見つめていた。『早くこの中で練習したい。強くなりたい』 と思いながらあっという間に一週間が過ぎていく。
規定練習が八時頃終わると九時半までが自由練だ。
日が過ぎていくにつれて同じ新入部員も警戒心が薄れ、これまでの自分の生い立ちやらピンポンでの戦績やらを話していくようになる。
今と違ってスマホも携帯すらない時代だ。面と向かったコミュニケーションだけが相手を知る、自分を知ってもらう唯一の手段といってよかった。
先輩たちもこの自由練の時に目ぼしい新入部員を捕まえてはそれぞれの実力を測っている。ぼくも何人かの先輩と試合をしたが、勝てない試合が多く高校までのレベル差を実感するばかりだった。
「やっぱ、違うね。手も足もでんかった」
ぼくより少し早く入部しただっちゃんに息を切らしながら呟くと
「今年は強い奴が入ったから、学連連覇安泰じゃない?」
「同じ高校だったんだ。めっちゃ強いちゃ」
「誰なん?」
ぐるっと見回してみるが今日はいないみたいだった。
春と夏に年2回ある学連でずっと優勝していると聞いて改めてレベルの高さを思い知り、田舎の小さな町で県総体の予選さえ勝ちきれなかった自分が通用するのか不安だけが大きくなった。
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