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体育館の隅っこの方で黒のユニホームで素振りをしている女子部員がいた。
ショートボブで前髪をピンで止めラケットの邪魔にならないようにしている。
丁寧にフォアハンドとバックハンドでラケットの位置を確認しながら切り返しの素振りを黙々としている姿に目が留まった。
「あの子は?」 とだっちゃん問うと
「新入部員らいいよ」 との返事。
「同級生も今年はレベル高いんだね」
その子は、今度は軽くフットワークを入れてフォア、バックの切り返しの素振りを繰り返す。
受験勉強で訛った感覚を思い出させるようにその動作を繰り返している。
「新入生は15人くらいになったらしいよ」
「競争厳しいね。だって男子だけでも4年まで入れたら40人以上だよね」
「ぼくらにはレギュラー入りは無理か?」
「マジ!そんなこと考えてるの?新入生はさっき言った奴しか無理じゃない?層めちゃ厚いもん」
そんなこと話している間に自由練も終わりとなり、まだ慣れない夜道を下宿まで歩いて帰る。
途中に大きな川に架かる橋の上を通る。流れが穏やかなこの川は椹野川といって両岸にちょっとしたボール遊びならできそうな河原が広がり東側にはサイクルロードが延びている。夜の椹野川は街灯も少なく今はなんだか不気味に流れていた。
夕方、練習に向かうときこの橋を渡ると、西の空は茜色に染まり始め河原の向こうに夕焼けが広がる。一人暮らしは思っていたほど楽なものではないと思うぼくを少し勇気づけてくれ、やり残したピンポンをするために実家を離れたことが間違いでなかったと確信を与えてくれた。
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