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人が流れるように目の前を通り過ぎていく。やはりいつまで経っても来ないと分かったとき、私は足を動かしてその場を後にする。向かうのはある家だ。
毎日ギリギリの時刻に私はそれを急かしにそこへ向かっていた。それはある事がとても待ち遠しかったからだ。
「早く起きて晴明〜」
いつも機械の目覚ましで起きない彼は私の声で眠そうに瞼を開ける。
「ん…奈津子〜まだ…待って…」
私の幼馴染みである晴明はいつも朝に弱い。なので私がいつも目覚ましの代わりをしていた。
「早く起きてよ!遅刻しちゃうでしょ!」
「分かった…」
彼は寝間着のまま寝惚け眼を擦りベッドから降りると、半目のまま着替えを始めようとするので不意に顔を背けて私は怒鳴り散らす。これも毎日の日課だ。
彼の親にはいつもお世話になっているねと言われるがそれも全て不純な動機から始まるものだ。
晴明は支度を終えると私と一緒に玄関を出て、少し早めのペースで歩きだす。それになんとかついて行きながら私は話題を振っていく。この時間も大切にすべきものなのだが、私が一番待ち遠しく想っている時間はここからだ。
「あ! 晴明!あと五分しかないよ」
わざとらしく私は、スマホの画面を開き驚いたような声をあげ、そこから待望していた時間の始まりだ。と表情を綻ばせてしまう。
「まじか!」
彼は私の手を掴むとそれを引っ張って走り出す。後五分…この時間がいつも恋しい。そのまま彼はどんどん加速していき、私の心臓の鼓動もソレに引っ張られるように早くなっていく。彼の熱い体温…伝わってくる掌の感触…ずっと…このままでも良かった。
上がる息は私の高鳴る心臓のせいなのか…それとも彼の足の速さについて行けないせいなのか分からない…でも…確かに幸せを感じていた。
だから私は毎日…少し遅めに起こしに行くのだ。毎日これが感じられるように…
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