イヤリング

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 しばらくそうして互いを感じ合っていると、紗希がゆっくりと目を開けた。まだ止まりきらない涙を零していたが、目尻を下げて小さく微笑む。 「こんなことして、わたしばかみたいだよね。……でも、あやちゃんに誘われてすぐ己奈ちゃんが来てね、わたし、全部終わらせるチャンスかもって思ったの」 「あの時、行くって決めたんだ?」  己奈の質問に紗希が頷く。 「最初は迷ってたんだけどね。ちょうど己奈ちゃん来たから。まだあやちゃんに行くって言ってないのに、返事したとか言っちゃった。そしたら己奈ちゃんも行きたいとか言いだすから、すっごい焦ったよ」 「紗希が行くなんて思わなくて……訳分かんなくなってた。最初から止めればよかったのに。紗希が好きだって気づかない私の方が馬鹿だった」 「二人ともパニックだったんだねぇ」  顔を見合わせて、くすくすと笑いだした。紗希の耳で、イヤリングが揺れる。 「そのイヤリング、似合ってる。つけてくれてありがと」  先ほどまで頬を撫ぜていた手でイヤリングを触りながら伝えると、紗希は「気づいてくれてたんだ」と嬉しそうに目を輝かせた。 「己奈ちゃんがくれたイヤリング、大事にしまってたの。でも、もしかしたら今日が己奈ちゃんと一緒に出かける最後の日になるかもって思ったから、つけてきた」 「……絶対最後になんてしないから」 「わたしだって、今はそのつもりだよぉ」  イヤリングを弄ぶ己奈の指に自分の手を重ね、紗希がふわりと笑う。 「また今度遊びに行くときもつけるね」 「うん。楽しみにしてる」  己奈も笑みを返した。自分のプレゼントをとっておきの日までとっておいてくれた紗希が、今朝とは打って変わって愛おしく感じられた。 「あっ!」  にこにことしていた紗希がだしぬけに大声を上げ、目を見開いた。突然のことにびくっとして、己奈の手が引っ込められる。 「な、なに? どうしたの?」 「今日! あやちゃんたちと遊びに行くはずだったの、忘れてた!」  紗希が慌ててスマホを取り出し、時間を確認する。 「どうしよ、あと五分しかない!」  あやちゃんになんて言おう、と狼狽え助けを求める紗希の視線に、己奈は苦笑して 「まあ、説明して謝るしかないね」 「だよねぇ……早く連絡、」  メッセージアプリを開こうとしている紗希の腕をぐいっと引っ張り、淡いピンクのグロスに彩られた薄い唇に口付けた。 「……まあ、あとちょっとだけ、こうしてようよ」  ぽかんとしていた紗希の顔が、じわじわと紅く染まっていく。己奈は口角を上げ、掴んだままの腕をするりと撫でながら囁いた。 「……もう一回、する?」 「……うん」  ベンチの脚の方を見ながらか細い声で返事をした紗希にまた微笑って、紗希の腰に手をまわした。  今だけは。あと五分だけは、このままで。
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