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電車の揺れる音と乗客の会話に囲まれた紗希と己奈のあいだは、奇妙な静けさに満たされていた。
普段はよく喋る紗希だったが、電車が進むにつれ言葉少なになっていき、三つ目の駅を通り過ぎる頃には黙り込んでしまった。会話相手の己奈がいつになく不愛想な返事しか寄越さなかったのもあるのだろうが、まるでこれから旅立つところなのに故郷に心残りがある人間がするような表情で、窓ガラスの先をじいっと見つめていた。
普段の己奈ならば紗希を気遣いなにか適当な話題を振るけれども、現在の彼女にそんな余裕は無かった。紗希が楽しそうに今日の予定を話していても、静かに街を眺めていても、どんどん苛立ちがつのる一方だった。今日の合コンに一緒に行くと言い出したのは己奈だったのに、いまは何故そんなことを言ったのだろう、と自分自身にも苛立っていた。だからといって紗希だけを行かせるなんて、あのときの己奈には到底考えられなかったのだ。
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