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紗希が今まで誰とも付き合ったことがないのは、他の誰よりも己奈が一番よく知っていた。
まだ幼稚園に通っていた頃、バレエ教室で紗希と出会った。見学に連れてこられたはいいものの、見慣れないものばかりでなんとなく居場所がなくて困っていた己奈に、真っ先に話しかけてきたのが紗希だった。
「あたらしいこ?」
興味津々といった様子で駆け寄ってきた時の笑顔を、己奈はいまだにはっきりと覚えている。
バレエに興味があったのも事実だが、あの時教室に入ると決めたのは紗希がいたからだったと、振り返ってみて思う。通い始めてからも、毎回紗希が話しかけてきてくれるのが嬉しくてしかたなかった。
幼稚園は別々だったけれど学区は同じだったので、小学校と中学校の間は殆ど毎日一緒にいた。放課後もどちらかの家で遊んだり、近くの公園に行ったり。勿論互いに他の友人もいたが、紗希と己奈のどちらかだけがいないということはほぼ無かった。
小学校高学年にもなると、段々と皆恋愛事に興味を持ってくる。あの子は誰のことが好きだの、昨日誰かがクラスで人気の男子に告白したらしいだの、そういった類の噂話が山ほどあった。
しかし、己奈は紗希と恋愛話をしたことがなかった。そんな相手がいなくても、紗希がいればそれでよかった。別に恋愛が嫌いというわけでもないが、紗希と一緒にふざけあっている方がずっと好きだったのだ。
高校に入ってからもそれは変わらなかった。女子校だったこともあり、ますます恋愛からは遠ざかっていた。
……紗希が「合コンに誘われたの」と言い出すまでは。
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