イヤリング

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 あのときの紗希の横顔が、どこか寂しげに見えたのは何故だったのだろうか。己奈はいつの間にか考え込んでいた。  そもそも、どうして自分はあの時「私も行っていい?」などと言い出したのだろうか。正直なところ、合コンに来る男には全く興味はなかった。大体、綾には悪いが彼女が参加している色恋沙汰というだけで面倒くさいことになる。そんなのはごめんだった。  ――紗希。彼女が行くのだと、そう言ったから。「彼氏を作ってみたい」と言い出したから。  だが、彼氏ができたところで、一緒にいる時間が少し減るだけだ。元々部活も委員会も別で、最近は別行動をしていることの方が多かった。大して変わるわけではないだろう。……紗希にとっての一番が、見ず知らずの男に変わるだけで。  『一番』。その言葉が頭に浮かんだとき、己奈はあまりのことに愕然とした。紗希にとっての一番は自分だと、これからもそうだと思い込んでいたという事実に気がついた。――自分にとっての紗希がそうであるように。  そして、ずっとお互いにとっての『一番』でいたかった。いつまでも隣にいたかった。  そんな簡単なことも分かっていなかったのだ。こんなに長い間隣にいたのに。  笑えてきた。合コンに行く電車の中で、やっと自分の気持ちに気がつくなんて。  全てがどうでもよくなりかけていたとき、がたんと大きく電車が揺れた。
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