常夜灯

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常夜灯

 朝までお休み、と傍で囁いて欲しいと望むのは、僕のわがままだろうか。  本当なら、眠るべき時間に顔を見に行くなんて、自分が苦しめていないか?  それでも、触れる指は愛しいし、ずっと握っていたい。  弱っていく横顔に、罪悪感を覚えながら私はまだ、夜が来ることを待っている。  紺色で、裾の色あせた法衣の下はなにも着ていないんだろう。  首筋がするりと細く青白く、生々しく常夜灯の下で光る。  あまり見ないで、と照れる。  手で隠しながら、感じる視線に戸惑う。  お願い、この手をどけてくださいと欲しながら。    大事にしなきゃ、大事にしなきゃ。  そう思うほど指先が硬直する。  子供なようで、子供じゃない中途半端な年齢と、妙な色気を自身は自覚していないのだろう。無防備で怖い。  このまま、なにもない方が苦しいことなんか、知らないくせに。  僕は、あなた以外を知らない。  嘘じゃない。そんなことで、嘘をついても仕方ない。  つう、と常夜灯のした流し目が自分を見上げる。  やめろよ、困ってしまうから。  再会した時より細くなった、もといやつれた顔立ちに胸が痛くなる。  連れて行って、と声のない唇がパクパクと動く。  惜しくない、なんにも。あなたさえいれば全部、全部いらない。  もったいないこと、口に出すなよ。  そうやって嗜めながら、首筋をおさえる手をつかんで引き寄せる。  ひんやりとした、それでいて湿った肌の感触に悲しくなる。  苦しめている、って思っているあなたは優しい。  僕以外に優しくしないで。  あなたの優しさも好きと囁く声も全部、僕のもの。  ああ、また雨が降っている。  傘なんかいらない身の上とはいえ、これじゃまた、帰るのに難儀するかもしれない。  遣らずの雨ですよと、頬に口付けて君が言う。  きっと、帰って欲しくなさすぎて。  もっと触れて、僕を噛みちぎって、あなたは獣なんでしょう。  できるなら戻りたくない、でも、君の身体がもたないかもしれない。  牙なんか役に立つか、君の前じゃ何もかも腑抜けになる。  可愛い人、本当に可愛い。  欲に塗れた僕を、どうか救って。  慌てて法衣を脱ぐ姿に、そっと胸元をおさえる。  その手を、君が優しく握って包む。  もう、生殺しなんかたくさん。  熱っぽい声が、ぐわんと脳髄を揺るがせた。  
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