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十三
それから私は電車を使って悠久利の家に向かった。わざとオルゴールは持って行かなかった。悠久利には、お母さんとも話をしてほしかったから。
お母さんが教えてくれた住所をたどって着いたアパートの一階のある一室。その部屋の表札に「霜月」という文字が記されてある。悠久利の苗字だ。
私はその部屋のベルを鳴らした。けれど、中からは何の反応もない。まだ帰ってきていないらしかった。
私は悠久利に会えるのか少し不安だったけど、でも、心のどこかでもうすぐ会えるという予感がしていた。
私は悠久利が帰ってくるまでの間、悠久利の部屋のドアにもたれかかった。そして、この時代に来る直前に悠久利と交わしたやり取りに思考を馳せた。
そろそろ外出するのに限界が近づいてきていることを感じた私は、悠久利に何かをプレゼントしようと思った。いつもお見舞いに来てくれているし、これくらいのことはしなければな、という思いからくる行動だった。
色んな雑貨店やデパートやモールを回ってみた。今の私の身体には少し酷だったようで、立ち眩みした。仕方なく近くにあった噴水のある広場のベンチに腰掛けた。そこで何気なく通りの向かい側にあるお店のウィンドウを眺めていると、腕時計が目に入った。
「悠久利に似合いそうだなぁ」
将来社会人になって、スーツを着て腕時計に目をやる悠久利を想像してみた。他の人がどう思うかは分からないけど、私にはかっこよく見える。
社会人になって悠久利と友達になったり、恋人になったりできる人たちがひどく羨ましい。
私は気が付くとお店の中に入ってその時計を眺めていた。なんとなく、この時計に惹かれていた。それを手に取ってみて、思った。
時間に、自分と大切な人を結び付けてもらおう。
そこで私は、あのオルゴールのことを思い出した。
それを買った翌日に悠久利に時計をプレゼントした。悠久利は少し照れた様子だったけど、嬉しそうに笑ってくれた。
「これ、ずっとつけておくよ」
「えぇ、おおげさだなぁ」
「嘘じゃないよ。お守りにする」
「・・・・・・そっか」
悠久利の言葉は気休めでしかなかったのかもしれない。それでも私は、嬉しかった。
日が暮れて悠久利を待っているうちに随分と時間が経ってしまったようだった。悠久利の姿を思い浮かべてみた。どうなっているのだろう。あまり変わってないかな。背は伸びたかな。痩せたのかな。それともお酒とか飲んで太っちゃったかな。
私のあげた腕時計、まだ持っててくれてるかな。私に会いたいって思ってくれてるかな。
色んな不安や期待が胸の中で混ざり合って落ち着かない。
そんな私の前で、私を見つめる誰かがいることに気が付いた。
「桃花・・・・・・」
スーツ姿の悠久利は、やっぱりかっこよかった。そして、悠久利の左手首には、私がこの前あげた腕時計がはめられていた。でも、悠久利にとっては、五年前の出来事だ。
やっぱり、悠久利は一度言ったことは曲げないね。約束したことは、どんなことでも果たしてくれる。悠久利のスーツ姿に腕時計、やっぱりすごく似合っている。
そんなあなたのことが、大好きです。
私は悠久利に笑顔を向けた。今はまだ困惑する彼に、今から人生最後のわがままなお願いをするつもりだ。無茶なお願いだけど、きっと悠久利は耳を傾けてくれる。
お願い、悠久利。
最期まで、私の側に、いてください。
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