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 逸る気持ちで家にたどり着いたけど、これといって家の外観に違いは見られない。  そっとドアに手をかけて、僕ははっと気が付いた。 「ドア、開いているのかな? 桃花ちゃんもちゃんと家に入れるかな?」  心配したけれど、すぐに今日が日曜日であることを思い出した。 「あ、大丈夫だ。おばさんもお母さんも今日は休みだ」  不安が消え去ったことに一瞬安堵したけど、すぐに違和感を感じた。そして、その違和感の正体を掴めないままドアを開けた。 「ただいま」  僕は靴を揃えてから家に上がり、廊下の奥にあるリビングから光が漏れているのを確認した。どうやらお母さんは家にいるようだ。  僕はそのまま二階に上がり、自分の部屋に入った。今の僕の部屋と変わりはないように見えた。けれど、カレンダーを確認してドキッとした。 「本当に、五年後になってる・・・・・・」  カレンダーは僕たちがいた暦から五年が経っていることを示すページに差し代わっていた。 「す、すごい! 桃花ちゃんも見たかな!」  これだけで未来に来た証拠を掴んだ気になっていると、一階からお母さんが「誰かいるの?」と声をかけてきた。  はーい、と返事をしようとして、さっきから感じていた違和感の正体に気が付いた。 「あれ、お母さんは五年後の人だから、今の僕を見たらどうなっちゃうんだろう」  言葉にしてみて、背筋が凍った。  過去の人間が、未来の人間に接触したらどうなるのだろうか。過去から来た僕が、未来のお母さんや僕と会ってしまったら、どうなってしまうのだろうか。  一瞬にして事態の大きさに気が付いた僕は、ギシギシと二階へお母さんが上がってくる音がしたのにうろたえた。 「隠れなきゃ!」  そう思ったけど、隠れられるような場所もなくてただその場でじたばたとするだけしかできなかった。  タイムパラドクスが起きてしまったらどうしようと思っていると、背中でガチャっと僕の部屋が開けられるのを感じた。  ゆっくりと振り向くと、お母さんが目を見開いて僕を見つめていた。 「まさか、過去から来るなんて」  僕がお母さんに見つかってからしばらくしてなんとか会話をすると、お母さんは僕の話を信じてくれた。でも、それにはかなり時間がかかった。いくつもの僕とお母さんしか知らない質問をされて、僕は正直うんざりだった。でも、質問に対する僕の正答率と僕のこの見た目から、なんとか信じてもらうことができた。何度も顔をもみくちゃにされて本当の小学生の僕なのかを確認されたのはかなり嫌だった。 「信じてくれた?」 「うん、信じるしかないわね」 「よかった。あのさ、この時代の僕はどこにいるの?」 「悠は今は遠くの高校に通ってるのよ。一人暮らしして」 「え? 僕、高校生で一人暮らしするの?」 「そうよ。悠が自分からそう決めるのよ」 「ふーん」  今でも寂しいのに、一人暮らしをするなんて、未来の僕に一体どういう心境の変化があったんだろう。  そう思っていると、お母さんは笑顔になって言った。 「それにしても懐かしい。今もだけど、やっぱり悠は可愛いわね」 「そうかな」 「ええ。子どもが家にいるのって、こんなに嬉しいのね。ごめんね、一人にさせてばっかりで」  お母さんは、笑っているような困っているような顔をして僕の頭を撫でた。 「ううん。僕のために頑張ってくれてるの分かってるから、大丈夫だよ」  僕の言葉を聞いて、お母さんは驚いたような顔をして涙を流した。その光景に驚いていると、お母さんはまた僕の頭を撫でてきた。  しばらくして、お母さんは泣き止んだ。そして、「ご飯食べる?」と僕に言ってきたので、頷いた。  お母さんはカレーを作ってくれた。味は、やっぱりいつもの味だった。 「美味しい?」 「うん」 「今と昔で味は変わってない?」 「うん」  お母さんは僕が食べている姿を笑顔で見つめていた。なんだか、こうやって二人で食べるのが久しぶりに感じた。そして、なんだか照れ臭かった。  ご飯を食べてリビングでくつろいでいると、窓の外はもう日が暮れ初めているのが見えた。  洗い物をしているお母さんは、僕に背中を向けたまま訊いた。 「そういえば、どうやって未来に来たの?」 「ああ、それは・・・・・・」  お母さんの質問に答えようとした僕は、しまった、と思った。 「桃花ちゃん!」  二人で公園で待ち合わせる約束をしているのをすっかり忘れていた。 もしかして、ずっと公園で待っているのか。  冷や汗をかいた僕は慌てて玄関に向かった。 「ちょっと悠?」  急いでいる僕の元に洗い物を中断したお母さんがやって来た。 「どうしたのよ、急に」 「桃花ちゃんと未来に来たんだ! お互い自分の家に行ってからまた公園で待ち合わせしようって」 「・・・・・・桃花ちゃんと一緒に? 桃花ちゃん、自分の家に行ったの?」 「そうなんだ!」 「それは絶対にダメ!」  お母さんが珍しく絶叫するのを見て、僕は思わずビクっとした。 「お母さん?」 「私も行く!」  お母さんはエプロンをつけたまま僕と一緒に家を出た。
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