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プロローグ
もしも奇跡が起こるのだとしたら、僕はその奇跡をどの願いに使うのか決めている。
けれど、どんな奇跡が起きたとしても、この世で生きている限りでは到底叶うことのないことを僕は自分の一番の願いとしている。だから、僕にとって奇跡はあってないようなものだ。いや、もしかするとその願いを叶える術は実現され得るものなのかもしれない。けれど、毎日インターネットで調べて情報を眺めてみても、それらしいものは今のところない。
僕の願いが叶えられるとき、そのときはいわば僕の一生の後悔を解消することができる瞬間だ。僕が抱えているこの心の傷はきっと、生涯を通しても癒されることはないだろう。
そう、諦めていた。
色のなかった、自分の五感をまるで他人事のように感じていたこの世界で、僕は、だから驚いた。非常に、驚いた。
「桃花・・・・・・」
五年ぶりに口にしたその名前を、再びその人物に投げかけるなんて思いもしなかった。
「なんで・・・・・・」
「久しぶり、かな? 悠久利」
僕の目の前で笑顔を浮かべるこの少女は、五年前から全く姿を変えていなかった。
僕の家の前で、僕の目の前で恥ずかしそうにはにかむこの少女は、五年前に死んだ幼馴染の一ヶ瀬桃花だった。
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