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「あと4センチ足が長ければ良いのになあ」
「あと4センチ?」
「ああ、僕はまるで2時間5分を切らなければ世界に通用しない現状にあってベストタイムが2時間5分7秒のマラソンランナーみたいにそう望むのさ」
「それはまた随分、凝った言い回しね、一体どういうこと?」
「つまりねえ、足があと4センチ長いと歩幅が8センチ広がるだろ。すると一分間に180歩進むそのマラソンランナーは5分早く42.195キロを走り切ることになって世界記録を更新できるから足があと4センチ長ければ良いのになあと切実に望むように僕も望むのさ」
「そう言いたいが為に態々計算したんだ・・・」
「うん。めっちゃ苦労したよ」
「めっちゃ苦労しただけの甲斐はあるわ。そんな風に譬えて言えるなんてスゴイと思うもの」
「まあ、勿論、咄嗟に言えることじゃないけどね。君に感心してもらうにはこれくらいのことが言えないと駄目だと思ったからね、一生懸命考えたんだ。ま、兎に角、切実な願いであることは確かだよ。何せ僕は短足だから、それに4センチ足が長くなれば、背が丁度170センチになって平均値に達するからね、劣等感に苦しまなくて済む」
「苦しむことなんかないわよ。男は中身で勝負だもの」
「そう言ってくれる君は全く僕の理解者だ。有難い限りだ。しかし、このマスクは有難くないね。折角、涼みに外へ出て来たのに口周りが汗だらけになっちゃうもんな。あと5分もしてられないや」
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