祖母の初盆

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それはお盆に、祖母のお墓参りに出かけた日の事だった。 父は駐車場に車を停めると、バケツと仏花を持って下りるように促した。母は仏花を。わたしはバケツを持ち、エアコンの効いた車内から外に出る。 外に出た途端、真夏の熱い空気がねっとりと体に絡みついた。熱せられたアスファルトが、スニーカーの底を溶かしてゆく。冷えていた体は熱くなり、ほんの10秒足らずで、じんわりと汗が浮かび始める。 ジージーとうるさく鳴き喚くセミの声が、暑さを加速させてゆく。ジリジリと皮膚を焦がす太陽の元、祖父母のお墓へ向かうため、急な坂を登った。 「暑っつい! なんで、こんなに暑いの?」 「仕方ないでしょう? 今は、お盆なんだから」 母親が日傘を揺らしながら、坂を登る。その背中には、服にシミを作るほどの汗が流れていた。 お盆だから、暑いのは仕方ない。そんな事、誰が決めたのだろう。 そもそも、お盆やお墓参りに、意味などあるのだろうか。わたしは、ずっと疑問に思っている。 「ねえ、お母さん。この前も、四十九日法要で来たところでしょ。どうして、お盆もお墓参りに来るの?」 今年の四月初旬。祖母の四十九日法要のために、親戚一同集まって、お墓参りに来た。 「法事は、三回忌で終わりにするから。今日くらい、我慢しなさい」 「……はーい」 渋々返事をしたけれど。本当は、納得なんてしていない。終わるのは、法事だけ。お盆と年明けのお墓参りは、また来るのだろう。 セミの鳴き声は相変わらずうるさいし、肌に張りつくシャツはベタベタしていて、気持ちが悪かった。
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