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今年は、祖母が亡くなって初めての夏。
祖父は、わたしが生まれる前に亡くなっている。母方の祖父母は健在なので、お葬式も法事も、わたしには初めての事ばかりだった。
灰色の墓石を眺めながら坂を登る。去年の夏は、この輪の中に祖母も居た。祖母は毎年、祖父のお墓参りをかかさなかったからだ。
中学一年生のわたしでさえ苦痛に思うのだから、高齢の祖母にとってこの坂は、相当厳しいものだったと思う。
なのに、どうして祖母は。毎年のお墓参りをかかさなかったのだろう。わたしは、不思議に思っていた。
「ほら、エリ。お墓に着いたわよ」
やっと、霊園の頂上に着いた。眺めが良いからという理由で、一番高い所に墓地を建てたらしい。
頂上まで車で来れないのなら、こんな所に建てなくてもいいのに。そうは思ったけれど、怒られそうなので、黙っていた。
「ちょっと、水を汲んでくる」
「わたしも手伝うわ。エリ、一人で行ける?」
「大丈夫だよ」
ずらりと並ぶお墓の中から、一人お墓の前へと向かう。毎年二回は必ず来ているので、場所は覚えている。
『高橋家』と書かれた墓の前で、足を止めた。ここに、わたしの祖父と祖母は眠っている。
「おばあちゃん。来たよ……」
もちろん、返事はない。
水を汲みに行った両親をぼんやりと待つ。ここに来ると、嫌でも思い出してしまう。祖母の最期を。
段々と起きている時間が短くなり、意志の疎通や食事への意欲も、ゆるりゆるりと無くなってゆく祖母。
徐々に痩せ細る体を見て、祖母との別れの時が近いのを肌で感じとった。
(あんな、おばあちゃん。見たくなかったな……)
元気な姿だけを目に焼きつけておきたかった。だって、わたしは。祖母の事が、大好きだったから……。
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