祖母の初盆

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「さあ。エリも、掃除手伝って」 「うん」 両親が戻って来る頃には、泣いていた子どもも、その母親の姿もなかった。 母親に渡された雑巾をバケツにつけ、固く絞る。御影石は、よく絞った雑巾で磨くこと。それも、祖母が教えてくれた。 掃除が終わると、仏花とお供え物を用意して、手を合わせる。目を閉じると、また祖母との記憶が溢れ出して、涙が溢れ、止まらなくなった。 「そろそろ、帰るか……」 「エリ。まだ、落ち込んでるの? もう、半年じゃないの。行くわよ」 目を開けると、やっぱり、祖母は居なくて。長方形のお墓があるだけ。 でも、ここに。祖母は、祖父と眠っている。毎年、会いに来ていた、愛する人と一緒に。 わたしは、思い出した。祖母が、ここに来ていた理由を。 『いつか、おじいちゃんの所に行った時にね。伝えたい言葉があるの……』 わたしも、言わなきゃ。今言わないと、きっと後悔する。 「おばあちゃん。ありがとう。……大好きだったよ」 お墓に向かって、もう一度手を合わせる。もう会うことも、話すことも出来ないけれど。おばあちゃんと最期の時間を過ごせて、良かったと、今は思う。 「……あのさ」 前を歩く両親に向かって、声をかける。 「来年も、お墓参りに来ようね?」 両親は顔を見合わせた後「もちろん、また来るよ」と答えた。 肌が焼けて、ヒリヒリと痛む。セミは相変わらず、うるさいくらいに鳴いている。 だけど、不快だと思っていたその鳴き声が、来年も来てねと、叫んでいるように聞こえた。
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