6人が本棚に入れています
本棚に追加
「さあ。エリも、掃除手伝って」
「うん」
両親が戻って来る頃には、泣いていた子どもも、その母親の姿もなかった。
母親に渡された雑巾をバケツにつけ、固く絞る。御影石は、よく絞った雑巾で磨くこと。それも、祖母が教えてくれた。
掃除が終わると、仏花とお供え物を用意して、手を合わせる。目を閉じると、また祖母との記憶が溢れ出して、涙が溢れ、止まらなくなった。
「そろそろ、帰るか……」
「エリ。まだ、落ち込んでるの? もう、半年じゃないの。行くわよ」
目を開けると、やっぱり、祖母は居なくて。長方形のお墓があるだけ。
でも、ここに。祖母は、祖父と眠っている。毎年、会いに来ていた、愛する人と一緒に。
わたしは、思い出した。祖母が、ここに来ていた理由を。
『いつか、おじいちゃんの所に行った時にね。伝えたい言葉があるの……』
わたしも、言わなきゃ。今言わないと、きっと後悔する。
「おばあちゃん。ありがとう。……大好きだったよ」
お墓に向かって、もう一度手を合わせる。もう会うことも、話すことも出来ないけれど。おばあちゃんと最期の時間を過ごせて、良かったと、今は思う。
「……あのさ」
前を歩く両親に向かって、声をかける。
「来年も、お墓参りに来ようね?」
両親は顔を見合わせた後「もちろん、また来るよ」と答えた。
肌が焼けて、ヒリヒリと痛む。セミは相変わらず、うるさいくらいに鳴いている。
だけど、不快だと思っていたその鳴き声が、来年も来てねと、叫んでいるように聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!