6人が本棚に入れています
本棚に追加
それはお盆に、祖母のお墓参りに出かけた日の事だった。
父は駐車場に車を停めると、バケツと仏花を持って下りるように促した。母は仏花を。わたしはバケツを持ち、エアコンの効いた車内から外に出る。
外に出た途端、真夏の熱い空気がねっとりと体に絡みついた。熱せられたアスファルトが、スニーカーの底を溶かしてゆく。冷えていた体は熱くなり、ほんの10秒足らずで、じんわりと汗が浮かび始める。
ジージーとうるさく鳴き喚くセミの声が、暑さを加速させてゆく。ジリジリと皮膚を焦がす太陽の元、祖父母のお墓へ向かうため、急な坂を登った。
「暑っつい! なんで、こんなに暑いの?」
「仕方ないでしょう? 今は、お盆なんだから」
母親が日傘を揺らしながら、坂を登る。その背中には、服にシミを作るほどの汗が流れていた。
お盆だから、暑いのは仕方ない。そんな事、誰が決めたのだろう。
そもそも、お盆やお墓参りに、意味などあるのだろうか。わたしは、ずっと疑問に思っている。
「ねえ、お母さん。この前も、四十九日法要で来たところでしょ。どうして、お盆もお墓参りに来るの?」
今年の四月初旬。祖母の四十九日法要のために、親戚一同集まって、お墓参りに来た。
「法事は、三回忌で終わりにするから。今日くらい、我慢しなさい」
「……はーい」
渋々返事をしたけれど。本当は、納得なんてしていない。終わるのは、法事だけ。お盆と年明けのお墓参りは、また来るのだろう。
セミの鳴き声は相変わらずうるさいし、肌に張りつくシャツはベタベタしていて、気持ちが悪かった。
最初のコメントを投稿しよう!