1人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、すみません。理人と言います。今日はお騒がせしてしまって…」
母親は自分より年下だろう俺に丁寧に頭を下げてきた。
「いえいえ、とんでもないです…」
「あ、おならおじさんだ!」
「ぶっ…」
俺に天使のお告げをしてくれた人は思いっきり吹き出した。
「こ、こら…やめなさい。失礼でしょ…」
吹き出したあんたも同じだよ…と、心の中でボヤキながらも恥ずかしさを堪え平常心を保つのに必死だった。
「そういや、お前も昔はマサちゃんだったな」
一部始終を見ていたらしい従兄がポンと俺の肩を叩いた。
その言葉に、理人の母親が納得したように頷く。
「パパー!はやくー!」
「じゃ、俺達はそろそろ帰るから。またな」
「ああ、また…」
礼儀正しく会釈し去って行った従兄の妻を悔しいけど、やっぱり美人だなと俺は思った。
帰り際、坊さんに呼び止められた。
「匡くん、体調悪かったんだなぁ。てっきり先生の事思い出して、感傷に浸ってるのかと思ってたわ」
ハハハと豪快に笑われた。
「読経中もね、体調悪かったら中座していいんだよ。あれは人を縛るもんじゃないから」
「え…そうだったんですか…」
思わず脱力する。
外に出ると、じりじりと高い位置にあった太陽も、いつの間にか西の方に傾いて柔らかさを見せていた。
最初のコメントを投稿しよう!