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それから、ギムレットはシェリーに対して身構えるようになってしまった。これが彼女を避けていた理由である。
昨日、長期休暇前日に、商店組合で会ったのも数週間振りだった。
シェリーに夕食に招待され了承したものの、足取りは重い。断ればよかったのだが、シェリー本人を前にすると、どうしても邪険に扱うことができない。不安そうな彼女に、つい行くと答えてしまった。
まともな食材はないだろう、と適当に食べ物を買ってシェリーの家を目指す。
商店の方は閉まってる店が多かったが、住宅地の方は長期休暇の初日とあって、帰省している者はまだ少なく、明かりが灯っている家がチラホラとある。
だが、シェリーの家は公的施設が集中している地区にあるので、明かりは少ない。加えて表通りから逸れた場所にあり、街灯も少なく余計に暗かった。
まばらな街灯以外に明かりのない路地に、ポツンと光が漏れている場所がある。
光は鉄格子がはめられた窓からで、その物々しい外観とは裏腹に、漏れる光には温かさを感じた。
ノックをすると、すぐに応答がある。
「やあギム! いらっしゃい」
窓の光と同じくらい温かい笑顔で迎え入れられ、ギムレットはこそばゆい気持ちになる。
「居間で待っていてくれ」
持参した食材で夕食を作るために、台所へ行こうとすると止められた。驚いたことに、すでに料理を作ってあるという。普段は料理ができないため、食事はパンと果実をまるごとが基本の、あのシェリーが。
「……フルーツの盛り合わせは、料理とは言えないんじゃねぇか? 」
さすがに、それが夕食となるとキツイと思ったギムレットだが、シェリーに軽くはたかれる。
「失礼な。ちゃんと火を使った料理だよ」
胸を張る彼女に、更に不安が増した。
石炭を出されたらどうしよう。
いや、シェリーが慣れない料理を頑張ってくれたのだ。できる限り食べよう。
「運んでくるから待っててくれ」
夕食の礼として渡した食材を抱えて、シェリーは台所へ向かった。
居間に入るとギムレットは再び目を見張る。所狭しと築かれていた本の山が、片付けられていたのだ。床に本が一冊も転がっていない。あの大量にあった本はどこに消えたのだ。まさか、売ったわけじゃあるまい。
呆然としていたギムレットだが、とりあえずイスに座ることにする。
腰掛けながら、しげしげと部屋を見回した。赤を基調としたエスニックな敷物を見て、こんな絨毯だったのかと感心する。国々を旅していた時に入手したのだろう。
通い慣れたシェリーの部屋と重ならず、居心地が悪い。
ふと、ズボンが引っ張られているのに気付く。視線を下げると、白毛の猿が足にしがみ付いていた。変わりように驚いている隙に、部屋に入ってしまったようだ。
無邪気にじゃれつく猿に、少し違和感が薄れる。つまみ上げて肩に乗せてやると、今度はタテガミで遊び始めた。
普段だったらすぐ引き離していたが、今回は猿の好きなようにさせてやった。
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