竜と学者と青い本

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 ギムレットとシェリーを引き合わせたのは、組合の事務員をしている彼の幼馴染みである。  あの日、ギムレットは仕事の報告をしに組合を訪れていた。  小さくはないが大きくもないこの商店組合は、建物も見すぼらしくもないが立派というほどでもない。  もとは宿泊施設だった建物を、改築して使われていた。  報告書を提出し、帰ろうと玄関を出たところで呼び止められる。 「ギム! ちょっと待って! 」  声のした方を探すと、建物の中から猫人族の女が駆け寄って来た。  猛然と走ってくる彼女に、中へ入ろうとしていた人間の男が驚いて避ける。男に顔だけ振り返った彼女は「ごめんね」と笑顔を向けた。横に避けた男は、彼女に見惚れて中に入るのを忘れている。  灰色の体毛に、宝石のようなコバルトブルーの瞳。猫人族らしい、しなやかな体付き。どこをとっても優雅の一言に尽きる彼女は、ギムレットの幼少の頃からの友人だった。 「シルビアじゃねぇか。どうしたんだ」  切れた息を整えるため一息つくと、シルビアはニッコリと笑んだ。  他の者なら魅了される笑顔も、長い付き合いのギムレットには心動かされるものではない。むしろ、経験から嫌な予感がして、眉間にシワを寄せる。  知らん顔をして帰っていた方が、良かったかもしれない。 「ちょっとお願いがあるの」  猫特有の柔らかさでしなを作る。 「お願いだぁ? ……いや待て、言わなくていい! 俺は聞かねえからな。どうせ、ろくでもない話なんだろ」  なにせ十年以上の付き合いだ。  シルビアの口の巧さは分かっている。このまま会話を続けたら、彼女のペースに持っていかれるのは目に見えていた。  ならば、初めから聞かないのが得策である。 「なによ、失礼ね。聞いてもないのに、ろくでもないなんて。アンタはいつから物事を始める前から決めつけるよーな男になったの? 昔はもっと素直で可愛げがあったのにっ」 「仮に俺に素直さがなくなったとすれば、それは確実にお前のせいだ」  今までシルビアのお願いを聞いたせいで、どれだけトラブルに巻き込まれたことか。  ギムレットの反論に、彼女はふんっと鼻を鳴らす。 「人のせいにしないでくれる? だいたい……って、そんなことはどうでもいいの。この包みを、ある人に届けてほしいのよ。これ、中は原稿なのだけれど、アタシがうっかり……」 「だから聞かねえって言ってんだろ! 」  思わず大声を出してしまい、ハッと口を押さえる。周りをうかがうと、何事だと不審な視線を送られていた。  ギムレットは歯噛みする。片や乱暴者で知られる竜人族、片や外見は可憐な猫人族の女。分かりやすい、チンピラがか弱い女性に絡んでいる図だった。 「と、とにかく場所を移すぞ」  ギムレットは出て来たばかりの玄関を、再びくぐり中へ戻る。  シルビアは昔から変わらず人目を気にする友人に溜息をつくと、彼の後を追った。
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