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手頃な場所を考え、職員用の休憩室を選ぶ。時刻は昼休みが終わったばかりなので、今なら誰もいないだろう。行ってみると案の定、中には誰もいなかった。
室内に設えてあるソファにドッカリと座ると、視線でシルビアにも座るよう促す。
「で? 頼みってのは何なんだ」
彼女が向かいに座るのを待って問うと、シルビアは意地悪くにやっとして
「あら、アタシの話なんて聞かないんじゃなかったの? 」
その得意げな顔にイラッとした。
「いいから早く話せよ! 」
「わーったわよ。ほんと竜人族って短気なんだから……って、そんなに睨まないでよ。はいはい、じゃあ話させてもらいます。えっと、アタシの友達にね人間の子がいるのだけど。その子、翻訳家やってるの。ほら、最近は組合も色んな業種を手広くやってるでしょ? 本の出版もやり始めてね。で、その友達は組合の仕事で、翻訳をしてるの。といっても、本業は学者なんだけど」
「学者だぁ? 」
ギムレットは、ケッと悪態をつく。
そんな上品な輩が、同じ町に住んでいるとは知らなかった。本なんて鼻をかむくらいしか使い道のないギムレットとは、住む世界の違う人種である。
学者と聞いて、臭い物でも嗅いだように顔をしかめるギムレットなど気にせず、シルビアは話を進める。
「そう、生物学者。しかも、女性」
シルビアは自慢げにあごをツンと上げた。どうやら彼女は、その学者をいたく気に入っているらしい。
「移住者でね。何て言うの? フィールドワーク? あっちこっちの国を渡って、生き物の調査をしてたの。だから語学にも長けてるってわけ。あらかた回り尽くしたから、腰を落ち着けて研究ができる場所を探してたのね。それでコックテールへ来たのよ」
この国、コックテールには多くの獣人が働いている。彼らの中には女性であっても、男性と同じくらいの身体能力を持つ者もいる。
他国にはいない女性軍人も、コックテールには当たり前にいた。
これに後押しされ、他の職業でも女性が進出している。外では女性は家の仕事をするものとされているが、この国では女性が自分で稼いで生活することができた。
働き口を求めて移住してくる女性は多く、友人という学者もその一人なのだろう。
「でも、研究だけでは食べていけないから、翻訳の仕事もしてるの。これが、その書きかけの原稿」
シルビアが封筒を取り出す。
「何でお前が、その学者さんの原稿を持ってんだ? 」
不審に思って問うと、彼女はバツが悪そうに頬をかく。
「あー……その子ね、集中すると他が疎かになる癖があって。それで時々、様子を見に行くんだけど。昨日も夕食を作りに行って、その時にうっかり間違えて持ってきちゃったのよ」
これ、と包みを指でトンと叩く。
「ギムにはね、これを彼女に届けてほしいの」
手を合わせて小首をかしげるシルビアに、やっぱり聞くんじゃなかったと後悔した。
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