竜と学者と青い本

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 玄関の先には廊下が左右に伸びていた。左手の奥は階段となっていて、二階と地下へ続いている。右手は角で曲がっていて、その先は見えなかった。  ギムレットはとりあえず一階を探してみようと、右手へ進むことにする。  角を折れた先も廊下は伸びており、その途中に開いたままの扉があった。  まずその部屋を確認しようと覗き込んだら、突然灰色の塊が飛び出してきた。  顔面に激突してきた物体に、たたらを踏んで耐える。何か投げつけられたのかと引き剥がすと、飛んできたのは大きいオウムだった。灰色の体毛に、くちばしは青色。感情の読めない黒目は、食い入るようにギムレットを見ている。 「何だこいつは」  呟くと、オウムは「ナンダコイツハ! ナンダコイツハ! 」とギムレットの台詞を繰り返す。 「学者が飼ってる動物か? 」  すると、オウムはバサバサと羽を動かして飛び立つと、「カッテルドウブツダ! カッテルドウブツダ! 」と喚きながら廊下の奥へと消えて行った。  しばし呆然とオウムが消えた方を眺めていたが、気を取り直して部屋に向き直る。  部屋の中は、まだ日もあるというのに薄暗かった。  カーテンを閉めたままなのか、と思い室内を見回す。窓は二つあり、どちらもカーテンはついていなかった。しかし、前に置かれた本棚や、山積みにされた本によって塞がれている。  本は部屋中に溢れていた。机の上にはもちろん、床にも所狭しと積み上げられている。それも、きちんと整えて積まれているわけではない。大きさの異なる本が、無造作に重ねられているだけなので、いつ倒壊してもおかしくなかった。実際、既に本が大量に崩れて、山となっている所もある。  中に入ろうにもこれでは足の踏み場がない。 「これは……住めるのか? 」  思わず呟いた時、崩れた本の山がもぞりと動いたので、また動物に飛びかかられるのではと、ギムレットはギョッとする。  本の山は少し盛り上がりかけて再び沈むのを繰り返し、やがて諦めたように静かになった。  代わりにくぐもった唸り声がする。 「って、誰かいるのか? というか、本に潰されて動けねぇのか? 」  ギムレットは積まれた本に尾が当たらないよう、恐る恐る近寄ってみる。山はかなり大きく、何棟もが倒壊したのが分かった。  大丈夫かと声をかけると、うめき声で返事があった。やはり、人がいるようだ。 「待ってろ。今どけてやるからな」  一冊一冊をどけて置くスペースはないので、とにかく本をかき分けていく。中には片手で持つのが大変なほど分厚いものもあり、これが頭に直撃する場面を想像してゾッとした。  半分ほど取り除くと、中から白衣を着た人がうつ伏せで倒れていた。だいぶ軽くなったはずだが、起き上がる気配を見せない。  まさか、本当に分厚い本に頭をぶつけたのだろうか。 「お、おい。大丈夫か」  倒れている人物の肩をそっと叩く。もし、本当に本がぶつかったなら、頭を揺らさない方がいい。見たところ出血はないようだが、だからといって油断はできない。  ギムレットの声にやっと反応して、その人物が何事か呟く。  耳を澄ましてみるも、声はか細く聞き取れない。ギムレットは口元に耳を近付けた。 「どうした? どこか痛むのか? 」 「うぅ……た」 「た? 」 「たべ……」  たべもの、と言い残してその人物は力尽きてしまい、またギムレットは途方に暮れた。
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