epilogue

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epilogue

 ピピピ、と電子音が鳴っている。スマホのアラームだ。七時設定の。 「んー」と唸って、大志は手探りで、ベッドに転がっているスマホを探した。隣で寝ていた裕史も寝返りを打って、大志の背中に抱きついてきた。素肌で密着されて、体が勝手にビクッと揺れた。 「大志、したい?」  背後から後孔を指で開かれる。まだそこは、性交の名残で綻んでいた。 「あ……」  喘ぎながら頷くと、裕史がローションを内部に塗り込めていく。三本の指で軽く慣らしてから、彼がゴムをつけて側臥位の体勢で大志の中に挿入した。 「んっ……はぁ……」  先端が蕾をこじ開けて沈み込んでくる感触に、ゾクゾクして、全身の震えが止まらない。気持ちが良くて堪らない。  ゆるく腰をゆすられ、たまに奥まで突かれ、大志の声は止まらなくなる。つま先が何度もピンと丸まって、恋人の牡をきゅうっと締め付けてしまう。 「んっ、ん……!」  大志はイくのを堪らえようと、唇を噛み締めたが、裕史の指に口内も犯されて、前の性器を震わせた。少量の精液が飛んだ。程なくして、裕史も大志の内部で爆ぜた。  はあはあ、と肩を上下させて呼吸しながら、大志は体を反転させ、裕史と向き合った。 「――良かった。今のも、夜のも」 「俺もだよ」  もう少し寝ようか、と恋人に言われ、大志は頷いた。あと一時間、余裕がある。  裕史がすぐに寝息を立て始めた。大志も目を瞑ったが、なかなか寝付けなくて、ベッドに仰向けになったまま、スマホを手にとった。  LINEのメッセージが来ていた。原中からだった。少し久しぶりだった。 『栄里が結婚した! 早くね? まだ二十四だぞ、俺ら。付き合って三ヶ月で電撃婚だって』  大志は目を瞬かせてメッセージを二回読み返した。  ――そっか。結婚したかあ。  大志は大学の卒業式を思い返した。  彼女とは蕎麦屋の一件以降、大学構内で顔を合わせていたものの、挨拶程度しかしていなかった。卒業式に、ほぼ一年ぶりにまともに話したのだ。  「今は実家で暮らしてるんだってね」 「うん。一年前からね。四月から一人暮らしする」 「そうなんだ。裕史さんとは?」 「一年会ってないよ。これからも会わないと思う」  大志が言うと、栄里は複雑な表情を浮かべた。 「あの日のこと、思い出したってこと?」 「そうだよ。栄里は何であの日、裕史くんを煽るようなことしたの」  彼女があんな行動をとらなければ――と思ったことが幾度かあった。でも、自分のことを思ってこその行動だったのかもしれないと思うと、彼女を責められなかった。 「悔しかったんだよね……私のほうがずっと大志のことが好きなのにって」  彼女は唇を噛み締めたあと、また口を開いた。 「何が何でも別れさせたくなっちゃった」 「なんで、そんなに」  自分のために何でそこまでするのだろう。友情が壊れるリスクを負ってまで。 「大志のことが好きだったんだよ、初めて会ったときから。大志はゲイだと思ってたから、友達のままでいようと思ってた。だけど、事故のあと、私のことを好きになってくれて嬉しかったんだよ」  栄里の目には涙が溜まっていた。  大志は何も言えなかった。 「今度誰かを好きになったときは、すぐに結婚するかも、私。逃げられたくないから」  ふふっと笑いながら、彼女は手を振って、大志の前から去っていった。  ――もし彼女をあの日、家に連れて行っていなかったら、どうなってたんだろう。  あのままずっと、裕史と付き合っていたのだろうか――いや、遅かれ早かれ、一度は破綻していただろう。裕史と自分の関係は。  大志が事故に遭うのも、記憶を失うのも、別れて二年会わなかったことも、すべて必然だったと思う。それで、今がある。  裕史の部屋に越してきて二ヶ月が経っている。季節は秋だ。  大志は恋人の寝顔をそっと撫でた。それだけで幸せを感じる。これからも、彼と同じ季節を過ごしていくんだなと、信じられる。  八時にタイマー予約していたラジオが流れ始めた。日曜日に毎週聴いている、クラシックのチャンネルだ。  今日の特集は、ドラマで流れるピアノ曲だ。サティのジムノペディが流れ始める。有名だもんね、と笑いながら、裕史を起こしにかかる。 「裕史、起きて。八時だよ。今日は藤崎さんたちが遊びに来るんだから」  そう、今日はここで、ホームパーティーをするのだ。藤崎と、彼のパートナーがやってくる。  ――掃除しっかりやらないとな。藤崎さんの恋人、きれい好きだっていうし。  会うのは初めてだ。声は電話で何回か聞いたことがあるけれど。  ジムノペディが終わってしまった。次に流れてきたのは、ショパンの別れの曲だった。とたん、過去の出来事が脳裏に蘇り、大志の目からは涙がこぼれた。  ――ああ、やっぱりこの曲はだめだ。  仰向けに寝ている恋人を見やる。と、彼は顔を手で覆っていた。 「この曲だけは――だめだ」  大志と同じことを言っている。 「これからもずっと、流れてきたら」  呼吸混じりの裕史の言葉に、そうだね、と返事をする。  それで良いと思う。  裕史の濡れた頬に、己の濡れた頬をくっつける。 「二人で一緒に泣こうよ」  そうやって生きていこう。これからもずっと二人で。了  ※これにて本編終了です。お読みくださりありがとうございました。ご感想いただけると励みになります。  後日、藤崎と真司を交えたホームパーティー編を更新する予定です。また、スター特典も書く予定です。  
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