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ホームパーティー3
時刻は二十時になろうとしている。
大志は裕史と一緒に、デザートの準備をしていた。冷蔵庫で冷やしたマスクメロンと梨を、裕史が包丁で食べやすいサイズに切る。大志はシャインマスカットを軽く水で洗ってから、芯にハサミを入れて、小房に分けた。それらを一人分ずつ皿に盛り付けて、二人でテーブルまで持っていく。
「あれ、蒼井も食べるの? 甘いの嫌いじゃなかった?」
藤崎が鋭いツッコミを入れてくる。
「嫌いだって知ってて、お土産をこれにしたんですか?」
裕史がツッコミを返している。ちょっと面白い。
「大志くんが好きだからね。メロンも梨もマスカットも」
「ありがとうございます。すべて俺の大好物です」
藤崎と目をあわせて、ほほえみ合う。
すぐに裕史の指によって、大志は顔の向きを変えられた。裕史と見つめ合う形になり、いたずら心が芽生えた。自分の皿からシャインマスカットを一粒摘み取り、恋人の唇に押し当てた。
「皮ごと食べられるよ」
裕史は無言で口を開けて、パクリと葡萄を食べた。大志の指ごと。
「あ」
人差し指を甘噛され、ズキンと甘いしびれが沸き起こる。
普段はストイックな感じがする裕史のクールな口元が、卑猥に歪んだ。すぐに指は解放されたが、ドキドキはなかなか収まらなかった。
――素面のくせに悪ノリしすぎ。
アルコールで熱くなっていた顔が、更に熱を持つ。
「いま、ものすごーくイヤらしい場面を見てしまった気がするよ。俺の大志くんが……」
苦笑しながら言う藤崎に、「俺のって何だ」と日比谷がツッコミを入れている。
「やっぱり甘いな」
裕史が顔をしかめながら、甘く掠れた声で呟いた。
もうすぐ二十一時になる、というところで、宴はお開きになった。
「楽しかったから長居しちゃったよ。料理も美味しかった。今日はありがとう」
玄関で靴を履いてから、藤崎が満足顔でペコリと大志たちにお辞儀をしてきた。隣に立つ日比谷も軽く頭を下げてくる。
「そうですね、あっという間に終わっちゃった」
大志の口からは名残惜しい声が出た。もっと話したいことがあった気がする。彼らとの食事は本当に楽しかった。
「そんな寂しそうな顔しないで」
藤崎が背伸びをして、上がり框に立っている大志の頭をポンポンと叩いてくれた。その動作に目くじらを立てつつも、日比谷が嬉しいことを言ってくれた。
「今度は俺たちの家においで。近いうちに招待するよ」
「本当ですか。めっちゃ嬉しいです」
別れの寂しさが一変。次の約束を待つ楽しみで、ワクワクしてきた。
「あーこんな顔されたら、社交辞令だったとは言えないよね? 真司」
藤崎が愉快そうに笑った。日比谷がわざとっぽく真面目な顔を作って、「本気だよ」と言ったあと、大志に笑いかけてくれた。
――打ち解けてくれた気がする。
エレベーターで顔を合わせたときは、絶対に彼の方に壁があった。それが、自分に笑顔まで向けてくれるようになった。嬉しい。
「じゃあ、お邪魔しました。またね、大志くん。蒼井はまた明日」
廊下に出て、手を振りながら歩いていく彼らを見送る。姿が見えなくなってから、大志たちは玄関に入った。
「あー楽しかった。裕史、ありがとう」
恋人は本来、こういう交流が苦手なのだ。それでも嫌な顔せずに、大志の望みを叶えてくれた。おもてなしの料理まで率先して担ってくれた。彼には感謝しかない。
「なにかお礼がしたいな」
二人仲良く靴を脱いで上がり框に足を踏み入れた。とたん、「じゃあ」と裕史が言い、大志の手首をぎゅっと握ってきた。
「明日は会社だけど、したい」
「え、そんなんで良いの?」
と言いながらも、嬉しいしドキドキした。実は大志もしたい気分だった。
「――俺にとって、お前とするセックスは毎回特別だよ。できて当たり前なんて思ってない」
キスもな、と言い添えて、裕史が顔を寄せてくる。大志もつられて彼に顔を近づけ、目を瞑る。ちゅっと音を立てて口づけたあと、もっと深いキスがしたくて口を開けた。が、顔を遠ざけられた。
「食器洗いが終わってない」
ため息まじりに裕史に言われ、大志はガクッとなった。せっかく良い雰囲気だったのに。
でも、裕史の言う通りだ。キッチンのシンクには汚れた皿がやグラス、鍋、フライパンが放置されている。二人で分担して、さっさと片付けなければ。
ホームパーティーは楽しいが、終わった後の片付けが大変だ。
「早くエッチしたいから頑張る!」
大志はシャツを腕まくりしながら、小走りになってキッチンに向かった。了
※これにてホームパーティー編終了です。
本編の終わり方がセンチメンタルだったので、ホームパーティー編で明るく終わらせました。ここまでお読みくださりありがとうございました。
スター特典も用意していますので、お読みいただければ幸いです。
参考文献 証言の心理学
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