哀愁が募るのはキミのせい

2/4
前へ
/6ページ
次へ
 去年の八月下旬のこと。  北の方にある土地で暮らしている唯斗。隣に立っている晴也も北の人間だ。  別々の仕事で、住む場所も違う二人。  お互いに合間を縫って、久々のデートをしている。傍から見れば友達同士で歩いている人に見えるだろう。  公共の場では、決して手を握ったり抱き締め合うことはない。配慮を保った付き合いだ。  あまり蝉の声が聞こえない土地。外の気温は、北の方だと比較的に他の地方や都市部より涼しい。  二人とも長袖ながらも薄着の格好をしている。二人にとって半袖を着るのは、卒業をする頃合かもしれない。  寒がりな二人には、暑さに関してはあまり感じないようだ。冬さえ来なければ、どの季節も涼しやすい土地だった。  デートは、月に一度だけ。  その代わりに一日の全部を晴也と過ごす。  恋人と居る日の天気は晴れ。一面の青空なのに晴也と居れば、鮮やかな色へと染め上げられてしまう。 「今日は、何したい?」 「最近、新しくオープンしたカフェでパンケーキが食べたい!」  晴也がこちらを見ながら質問をしてきた。  唯斗は、地方ならではの地方のテレビ番組で紹介されたお店を提案する。新しくオープンしたカフェで抹茶ソースがかかったパンケーキを食べたくなった。  番組内の出演者が抹茶ソース掛けのパンケーキを頬張る姿。口の中にパンケーキでいっぱいにしている映像。  つい映像の中へと惹き込まれてしまった。 「行こうよー」  食いしん坊な唯斗は、食べ物になると素直さが発揮される。晴也の袖を掴みながらカフェがある方へに引っ張ろうとしていた。 「じゃあ、行こうか」  嫌な素振りも見せずに、提案をすれば賛成する晴也が好きだ。晴也が唯斗の前に手を出してくるけれど我慢をして繋げない。  手を繋がない理由は言った筈なのに、こうやって断ると、つーんっとした顔をする晴也。  それが堪らなく愛おしいのだ。  腹いせか分かんないけれど晴也がカフェの方向へと急に走り出す。 「先に着いた方の勝ちなっ!」  唯斗に振り向いて勝負を申し込まれてしまった。  晴也は、体勢を戻して唯斗に背中を見せつける。 「まっ、待ってよー! カフェの場所、分からないくせに!!」  晴也を追うように風を切る。遠くまで聞こえるように大声を出しながら、唯斗の背中との距離を縮めようとした。  結局、カフェの場所を知らない晴也の負け。負けた張本人は、唯斗が注文したパンケーキの代金まで払ったのだった。  抹茶ソース掛けのパンケーキは、出来たてのふっくらとしている。その上から抹茶ソースがかかり、ひんやりと温かさが混ぜ合わされた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加