死ぬ前にカレーを食べたひと夏の思い出

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 (あ、死にたい)  その日、私は唐突に自分の人生を終えたくなった。特に嫌なことがあったわけじゃない。ただ、これからやるレポートと、友達の話についていくために録画した人気のドラマを消化する日のことを考えていたら突然思い至ったのだ。  なんか、疲れたな。  一度意識したら、その考えは白いシーツに溢したコーヒーのようにじわりと広がって、常に頭の中のどこかにいるようになった。  死んでしまいたい。というより、全部全部やめてしまいたい。明日のレポートも、明後日のドラマも、明明後日の友達との約束も。  そんなことを考えていたらすぐに月日が過ぎて、いつの間にか夏休みになっていた。一人になるとようよう虚無感がすごい。夏休み中に死んでやろうと思った。カレンダーに向かってペンを投げて、ぶつかった日を命日に決めた。どうせ死ぬなら最期に豪遊してやろうと思って、貯金箱をひっくり返して中のお金を全部ひっぱりだした。死ぬなら少しでも遠くで死にたくて、電車で5駅先の町にいく予定をたてた。  夏休み序盤にそんなことをしている私は、さながら学生らしい夏の楽しみ方をなぞっているように見えたことだろう。でもその勘違いが心地よくて、私はさもひと夏の思い出を作りにいくかのように意気揚揚と準備を終えた。
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