死ぬ前にカレーを食べたひと夏の思い出

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 「やっぱり、私は死にたいです。もう全部どうでもいいんです。」  「そっか。」  そういってお兄さんはまたカレーを食べ進めた。大きな山だったカレーは、既に六割が消えている。そろそろ死のう。  財布を取り出すと、お兄さんが「でもさ、」と引き留めた。  「もう一週間だけ生きてくれない?」  「?私的には今死にたいんですが。」  「わかってる。でも、死ぬ前の慈善事業だと思って待ってほしい。それでも死にたかったら死んでいい。でも少しでも生きていようと思えたら、生きていてほしい。」  どうして私の死ぬ権利をこの人に委ねなければならないのか。不快に感じたが、そのうちそれを断ることも面倒になってしまった。  「わかりました。じゃあ一週間だけ生きてみます。」  すると、お兄さんはぱっと顔をあげて嬉しそうに破顔した。  「ありがとう!そうだ、これ俺の連絡先ね。文句言うときとか、ここでカレー食べる時とか呼んで!3日以内に日を空けるから!」  それだけいって、ぱぱっと荷物をまとめて出ていってしまった。連絡先をみると、この店の前にある企業の名前とお兄さんの氏名が書かれていた。変な人に見つかったものだ。  今度こそ荷物をまとめて席を立つ。さて、私はあと一週間も生きなきゃいけないのか。だが、それだけ生きたらもう死んでいいのだ。そう考えたら、前よりは楽かもしれない。
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