壁に君あり

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壁に君あり

 壁際に布団を寄せて君と寝ていた。  君が壁際を向いていて、ぼくは君の肩までタオルケットをひっぱってかけてやる。  君が身じろぎをして眠りながら笑い声をたてた。  次に目が覚めたとき、君は寝返りを打ってぼくの方を向いていた。  かわいいなと思って、頬にかかった髪を指でよけてやりながらキスを落とした。  時計を見ると6時12分で、起きるにはまだ少し早い。ぼくは早起きしてもいいけれど、きっと今起こしても君は「あと5分だけ」って瞼を開けもせずに言うだろう。  その次に目が覚めたとき、また君は寝返りを打っていて、壁の中に入り込んでいた。  壁には大きく引き伸ばした写真をプリントした布が貼ってある。  紫と紺碧のグラデーションがかった空にぽつんと浮かぶ星、誰もいない寂しい海辺。  君の体が半分そちらに転がり出てしまっている。  あわてて上半身を起こして君の体を引っ張ってこちらに戻した。  もう眠らないほうがいい。眠ったら君がまた知らず寝返りを打って、壁の向こうへ飛び出してしまうかもしれない。  ぼくは君を抱きしめるようにしてじっとしていた。  眠らない。眠らない。  しかしまぶたが重たくなってきて、意識がぐるんぐるん揺さぶられると逆らいきれなかった。ぼくは知らずまぶたを閉じる。  はっとして飛び起きたとき、隣に君は寝ていなかった。  壁を見ると壁の中の砂浜に転がっていて、何も気付いていないようにすやすや眠っている。  ああ!  なんてことだ。壁に手を伸ばす。  君を連れ戻さなくてはと焦って起き上がって腕を伸ばす。  冷たい壁の感触がぼくの手を阻んで、触れた途端に壁に映っていた海辺も君の姿もふつっと消えた。
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