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「田島さん、5分女の名前、思い出せそうっすか?」
山崎から、田島さんとオレのグループラインにメッセージが送られてきた。この迷惑女を『5分女』と呼ぶことにしたらしい。なかなか良いネーミングだ。
「いや、さっきから思い出そうとしてるが、無理だ。別のやり方を考えてみる」
と田島さん。やはり、田島さんと山崎に名前を思い出してもらうのは難しそうだ。
一番簡単なのは、女性陣にラインなどのメッセージでこっそり教えてもらうことだ。しかし、まだ参加メンバー同士で連絡先交換をしていないらしく、今の段階でお互いに連絡先を知っているのはゆうこちゃんとオレになるのだが、先ほどゆうこちゃんから
「ごめん、私もこの人の名前覚えてないの!」
とラインが来ていた。5分女はミキちゃんの先輩で、ゆうこちゃんとも初対面なのだ。名前を覚えていなくても仕方がない。何より、男性陣も全員覚えていないのだ。ゆうこちゃんを攻められるはずもない。
男性陣とゆうこちゃんは先ほどから何とかこの女の名前を手に入れる術はないだろうか。と熟考に入っており、ミキちゃんも懸命に女の名前を伝える術を探している。
そんな状態なので、今、この場に会話はない。側から見れば重苦しい雰囲気に見えることだろう。しかし、5分女以外のメンバーの気持ちは、完全に一つになっていた。
5分女の名前を知っているのは、ミキちゃんだ。ミキ→ゆうこ→オレと繋いでもらえれば、名前がわかる。しかし、ミキちゃんの携帯もゆうこちゃんの携帯も、5分女の目の前に置かれていた。5分女は「ミキの携帯もゆうこちゃんの携帯も可愛いねー。見せてー」と2人から携帯を奪い、それを返さずに自分の目の前に置いていたのだ。
今思うと、これは確信犯だ。こいつはこいつで、自分の名前の流出を必死になって食い止めている。何が何でも、男達に自分の名前を思い出させないと気がすまないらしい。
こうなると、ミキちゃんから5分女の名前を聞き出すのは難しい。
山崎もその状況をさとり、先刻から自分で思い出す作戦に切り替えているようで、自分の手のひらに物凄いスピードでいろんな文字を書いている。何かが引っかかって思い出すかもしれないと考えているようだ。先輩の田島さんは、携帯をじっと見て、微動だにしなかった。いつもは頼りになる田島さんだが、万策尽きたのかもしれない。
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