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オレは、なんとかミキちゃんとゆうこちゃんの携帯を5分女から遠ざけようとした。名前を聞いていないオレが名前を思い出すことは不可能だ。だったら、できることはそれしかない。しかし、5分女のガードは硬かった。時間があればそれなりに作戦も立てられるのだが、5分しかないのだ。そして5分の間、この女はガードを緩めるつもりはないようだった。
「あの、得意料理とか聞いていいっすか?」
山崎が唐突に5分女に質問した。このままだと状況は変わらないと判断した山崎が、何とか流れを変えようと動いてくれた。
「得意料理ー?そうねー。色々あるよー。聞きたい?」
「聞きたいっす!」
全く興味がないはずなのに、山崎は即答した。
いいぞ山崎、もっと喋らせろ。何とか隙を見つけて、ミキちゃんとゆうこちゃんに携帯を戻すんだ。
見ると、ミキちゃんもゆうこちゃんも自分の携帯を見つめている。5分女が隙を見せれば、すかさず奪う体制に入っている。オレたちは、完全に連携できていた。
「得意料理発表ー!まず、第5位はー…チャーハーン!」
この女は…バカなのか。誰もランキング形式の発表など望んでいない。しかも、5位からということは、5つも言う気なのか。表情を見る限り、山崎も全く同じ思いを抱いているようだった。
「続きましてー、第4位はー…コロッケー!」
なぜ立ち上がって発表してるんだ。この女は。頭が痛くなってきた。でも、これでいいのかもしれない。好きに言わせてやると、それだけ隙が増えるかもしれない。そう思ってミキちゃんを見ると、ミキちゃんは泣き出しそうな顔をしていた。見ると、5分女の手にミキちゃんの携帯が握られているではないか!
「第3位はー…カニクリームコロッケー!」
5分女はミキちゃんの携帯をマイクがわりにして発表した。その携帯に、マイク機能などない。それに、コロッケとカニクリームコロッケを分けるな。『コロッケ』で一つにまとめろ。他にも色々と言いたいことはあったが、ツッコミ出すとキリがなさそうだ。それより、この馬鹿げた発表を何とかやめさせないと。
「第2位と第1位はー…後ほど発表になりまーす!」
お前は本当に帰る気があるのか?もしおれたちがお前の名前を思い出せなかった場合、お前は急用とやらで帰るのではないのか?
「ピピピピー」
その時、5分女が設定したタイマーが鳴った。何が何やら自分でも状況がよくわからなくなってきていたのだが、あれから、5分が経過したようだ。
しかし、5分女は明らかに帰りづらそうであった。それはそうだろう「2位と1位は後ほど発表」の直後だ。さすがにこのタイミングで「帰る」とは言い出せないのだろう。そもそも、誰も望んでいないのにランキング形式になどするからこうなるのだ。「得意料理はコロッケかなー」で終わらせておけば、すんなり帰れたのだ。
「ピピピピー」
鳴り続けるタイマーの音が重たい空気をさらに重くする。もう、誰にもどうすることもできなくなっていた。
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