3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ごめんごめん、オレ、忘れっぽくてさー、クズコちゃんだったよね」
何と、田島さんが唐突に5分女にそう言った。そういえば田島さんは、5分女の発表中一言も発することなく、携帯を眺めていた。ゆうこちゃんが驚いたように田島さんを見ている。ミキちゃんはやったーと言わんばかりに右拳を握りしめていた。
「思い出すの遅いけど、まあいいわ。さ、飲み直しましょうか」
5分女も、これで帰る必要はなくなった。とても帰れる空気ではなかったので、田島さんは5分女までも救ったことになる。
ただ、田島さんが自力で名前を思い出したとはどうしても思えない。興味のないものにはとことん興味のない人だ。『クズコ』という名前など、頭の片隅にも残っていなかったはずだ。
そんなオレの思いを察してか、田島さんが自分の携帯をこちらに見せてくれた。その画面には『知恵袋』というページの画面が表示されていた。「あっ」と小さく声をあげてしまった。なるほどと思った。このページに質問を投げかけると、不特定多数のユーザーがその質問を見ることができる。そして、回答をもらえるのだ。
田島さんが携帯を見つめていたのは、万策尽きたのではなかった。天命尽くして、人事を待っていたのだ。
田島さんは「あと5分」になった瞬間、ここに5分女の特徴を書き込み、名前を質問したのだ。これほどまでに迷惑な女だ。他で同じように迷惑をかけていても、不思議はない。田島さんはそう思った。そして、質問した。すると田島さんの予想通り、同じ被害にあった人がいたようで、何と複数人から「その女はクズコです」という回答が寄せられていた。まったくもって、迷惑極まりない女である。
「田島さん、すごいっす」
同じくカラクリを知った山崎が田島に尊敬の眼差しを向けている。オレも同じ気持ちだった。
絶望的と思える状況でも、最後まで諦めてはいけない。どこかに、必ず突破口はある。そのことを教えてくれた田島さんは凄い先輩である。
長いようで、短くも感じた壮絶な5分間。オレはこの5分間を、生涯忘れることはないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!