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ピンポーン。
店員を呼び出すためのベルが鳴る。近づいてくる店員にはすでに表情がなかった。
「すみません、子どもが押してしまって……」
私が謝ると、店員は無言で去っていった。無理もない。用もないのに呼び出されるのが4回目なのだから。
子どもが触らないようにベルを空いている椅子の上に移動させると、1歳になったばかりの息子の七音が猛然と怒りだした。泣きながらテーブルをバンバン叩いている。仕方ないので七音の手が届かないギリギリの場所に置くと、子ども用椅子から身を乗り出してベルを押す。
ピンポーン。
店員が近づいてくるのを目を輝かせながら待っている。押せば人がやってくるのが面白くて仕方ないのだろう。まるで殿様だ。こちらを見て動かない店員に、私は腕で大きくバツを作った。
もう疲れた。まだ何も食べていないが、このままお店を出てしまおうか。
久しぶりに、七音を出産した産院の近くにあるサイゼリヤに来ていた。妊娠中、定期検診のたびにこのサイゼリヤでランチを食べていた。
ここに来たのは、初心にかえれるかと思ったからだった。
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