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川田さんは、いわゆるごくつぶしという奴だ。
パチンコ、アル中、DV気質。忍耐強さに欠け、仕事も長続きした試しがない。この男が曲がりなりにも生活していけるのは、寄生虫みたいに母の収入を当てにしているからだ。
「うるせえ!」
こちらの思考を見透かしたのか川田さんがケタケタ笑った。
「いいんだぜ、生意気なことを云っても。ただ、こんな時間まで夜遊びをするような悪い子には、指導が必要だなあ?」
「…………」
「母親が忙しくて躾けられないなら、俺が躾けてやる。悪いことをした時に殴ってくれる大人がいるというのは、子どもにとって幸せなことだ。とにかく、ここまで早く上がってこい」
歩きすぎて重い足を引きずって、私は震えながら自分の部屋まで歩いた。鍵を開け、緊張しながら褪せた畳を踏む。
「お前、今日のバイトはどうした?」
「今日は……具合が悪くて」
声が枯れた。
「はあ?」
呆れながら川田さんが煙草の火を灯す。ゆらゆらと、煙が部屋中に広がり私は小さく咳き込んだ。
「はした金を稼いでくる以外、お前になんの取り柄があるっていうんだよ。親子揃って貧乏人なくせによう、おかげでスロットもろくに回せねーじゃねえか!」
「…………ぐ、」
癇癪を起した川田さんの蹴りが私の体に当たった。
何度も、何度も制服で見えなくなる場所を殴られる。男の力に少女の力では敵わない。惨めなほどに暴力を振るわれ、私は虚ろな心境となった。
「高校なんか辞めちまえ」
「いや……です」
「辞めちまえって言ってんだよ」
今辞めたら、もう二度と先輩と会えなくなってしまう。
やり過ごすしかないのだ。
この男が、いつものように暴力に飽きてしまうまで。
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