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――気が付くと、学校に居て。数学の授業の最中だった。
私は黒板の前に立って、まだ教わっていないはずの難解な数式を見事に解いてしまったらしい。
勿論、私自身にそのような大それたことをした記憶はない。学力から考えたら嘘のような現実。
あんぐりと口を開けたいじめっ子達と、感心した中立派の賞賛を浴びながら、私はひたすらに居心地が悪くて仕方なかった。
「……チッ」
クラスの中でも、一際目立つ女子が明らかな舌打ちをして見せた。
大きなリボン。派手な流行りの化粧。校則違反に改造された短いスカート……。
町谷梨花。一番大きなグループを率いているリーダー格女子高生。
どうして彼女に目をつけられたのかは分からない。けれど、一度存在に恐怖を感じてしまえばそれを忘れることは難しくて。私は思わず反射的に身を竦ませる。
「…………」
私が俯くと、数学の教師は空気を読まずにこちらをべた褒めしてくれた。いっそのこと、こんな風に注目を浴びてしまうくらいなら無難に通り過ぎてくれた方が良かった。
生徒の大半から苛めでシカトされている私をこうして持ち上げることによって、クラスの状況が打破できるのだと妄信しているかのようだ。
そんなことあり得ない。大抵の場合苛められっ子は何をしたって同じだ。どんなに秀でたものがあったとしたって、一度つけられてしまったレッテルを払拭するのはとても難しいことなんだ。
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