11人が本棚に入れています
本棚に追加
気が付いた時には、視界が宙を舞った。
階段に立っていた私は、背後から見えない誰かによって突き飛ばされた。
落下していく瞬間、コマ送りで時間がゆっくりと流れる。
走馬灯。激痛が白光の稲妻のよう。
本当に私って人間だったのだろうか。
呆気なく思ってしまうほどに、人体の構造とは脆いものだ。
疑ってしまうくらい、突き落とされた衝撃で呆気なく身体は壊れた。
乱暴に扱われた人形が破壊されるように。私の骨が、その事件によって折れてしまったのだ。
「…………う、ううう……っ」
見えない。犯人の顔が、分からない。
……脂汗が滲むほどの痛みに呻いていると、靄のかかった網膜に慌てて逃げていく誰かの影がうっすらと映った。
慌てて通りがかった先生が駆けつけてくる。犯人が考えた以上の騒ぎになって、私の方が呆然としてしまうくらい。
連れて行かれた医務室ではお手上げ状態だった。大事をとって救急車が呼ばれた。健康保険証なんか持っていない私は暗澹たる気持ちとなってしまう。
診察を受けて治療した病院で、高額の医療費が請求されそうになった。だけど、服を脱いだ私の裸身に浮かぶ幾つもの痣を見つけた医師が、請求書を出して追い出そうとしていた看護師を押しとどめる。
学歴のよろしい医師には、私が何者かに暴行を日常的に受けていることなど見透かされてしまったらしい。
「お母さんはこのことを知っているの?」
医師の質問に、私は顔を曇らせた。
最初のコメントを投稿しよう!