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「おい! 大丈夫か、おい!」
しばらく意識のないまま、身体は歩き続けたらしい。
閃光のような真っ白な世界からゆっくりと浮上すると、やけにひんやりとした感覚が太ももの素肌の辺りから伝わってきた。
「…………」
まだ、身体は思うように動かない。
瞼を開くと、自分がどこで寝ていたのかをようやく把握して悲鳴を上げそうになる。
……墓だ。
知らない墓地の通路のど真ん中で私は気絶していたらしいのだ。
「君、どうしてこんなところに?」
心配そうにのぞき込んでくるのは、記憶にない赤の他人。身長の高い二十代後半の男性だった。
「…………」
知らず知らず私の面が、嬉しそうにほころぶのが分かった。
相手が困ったように溜息をつく。
「じゃあ、名前は?」
「…………」
私の指が、何かに突き動かされるように墓石をなぞった。自然と碑銘に滑らされた事実に気が付き、男性がひゅっと息を呑む。
「まさか……」
気まずい空気が流れる。
しばしの間があいて、
強引に男性は目の前の少女の身体を抱きしめた。痛いくらいにきつく抱擁され、状況が分からずに混乱している私は、どうしたらいいものか緊張するしかない。
とりあえずそれっぽく振舞っておくべきか。なんだかこの人の都合のいいように脳内で誤解されてしまったらどうしよう。
暗闇で分からなかったけれど近くで観察してみると、結構やつれた雰囲気の薄幸なイケメンさんだった。
「……っ、どうして……どうして」
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